第8話 神が勝負を挑んできました

 聖剣サンジェバを背中にしばりつけて、隠しておくことにした。

 ぼくは華の都パパリで行商を手伝いつづけていた。時計と靴を路地で売る。毎日、声をはりあげ、客の呼び込みをする。自分が何の役に立っているのかもわからないむなしい毎日。

 幸せはこの世界のどこにあるのだろう。冷たい風が頬をなでる。

 ある日、母が突然、病気になった。高熱を出し、テントの中で寝込んでいる。

「大丈夫かい、母さん」

「気にすることはないよ、チート。わたしが死んだら、宝石や衣装を売りなさい。少しは生活の足しになるでしょう」

「そんな。弱気にならないでよ、母さん。大丈夫さ。すぐに病気は治るよ」

「お母さんは、薬草学の知識もあるから自分でわかるんだよ。この病気は治らない。お迎えが来たのさ」

「母さん」

 ぼくはどうしたら、いいのかわからなくなった。

 父さんが、パパリでも有名な医者の先生に母さんの治療を頼みに行った。その間、ぼくは店の番をしていた。お金の計算がややこしい。まちがえないように必死に、客をさばく。

「アンヌといいます」

 老婆が母さんの様子を見に来た。父さんは腰を低くして、老婆を案内している。

 老婆に付き従って、一人の少女がやってきた。

 少女は無言で、老婆の手伝いをする。

「きみは何者?」

 ぼくは少女に聞いた。

「ユユリと申します。アンヌ様の弟子です」

「アンヌ様は医者の先生なのかい?」

「そうです。宮廷で医術を教えておられます」

 それは、すごい人が来たものだ。宮廷の医者といったら、王様の病気の治療にあたったりする人なわけだろう。母さんの病気も治るかもしれない。

 ぼくはそんなことを期待していたが、アンヌ様は、母さんの容体を見ると、粉薬を一袋、ぼくらに売りつけた。

「とても重い病です。この病にかかって治った者はおりません」

 アンヌ様はいう。

 父さんの顔が青ざめていた。

 アンヌ様が帰った後、父さんは泣いていた。

「チート、ちょっとこっちに来なさい」

「どうしたの、父さん」

 ぼくは、父さんのただならぬ様子にびくびくして、前に出ていった。

「破産だ」

 父さんはいった。

「どういうこと? 父さん」

「母さんの治療代を払ったら、我が家に財産は残らない。もう生活していくお金はない。我が一家は破産だ。母さんの病は治らないし、父さんとおまえものたれ死ぬだろう」

「な! だって、一回診察を受けただけじゃないか?」

「宮廷の医者だ。父さんたちでは診察代を払うことはできないんだよ。父さんはそれでも母さんの病を治したかった」

「そんな。父さん、嘘だろ」

「チート。もう店の手伝いはしなくていい。どこか、この町で別の仕事を探してきなさい。父さんは母さんの容体をずっと見ている」

 ぼくは、涙を流して、夜の町へ走り出した。

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