白に逆らう。

@sdertt

白く染まる世界で

 この世界には「カミさま」がいます。

 八百万なんて目もくれないほどに多く、この世界のなかで、ふわふわと彼らは存在しています。

「ふわふわ」・・・彼らを表現するには、この言葉ほど合っているものはないでしょう。とにかく曖昧です。

 まず、一般の人には見ることも叶いません。特別な訓練を受けた人か、先天的に見える人でなければ目にすることはありません。

 まるで幽霊、と思うでしょうが、そう思っていただいて結構です。或る人の言うには、そこらじゅうに浮いている白い発光体がカミさま、とのこと。見る人によって姿形が変わるため、それに限らないとのことですが、概ね、そんな感じだそうです。

 また、触れることもできませんし、会話を挑むなどもっての他です。彼らは存在事態がふわふわ、曖昧なものたちなのです。

 では、何故「カミさま」などと大それた呼び名が付いているのかと言えば、彼らが私たち人間の根幹、「魂」を成しているからです。


「人を人たらしめている生命の源」


 それが「カミさま」です。人間に限らず、この世に生を受けたならば、彼らが宿っていないことはありません。しかし、魂を持つことができるのは、専ら私たち人間です。動物や植物に魂が無い、などと言い切ることはできませんが、複雑な思考を巡らせたり、感情を表現したり・・・「魂」があるからこそ可能なのだと、考えてるわけですね。

 一説には、彼らが体から抜け出てしまうと、考えることも動くこともできない肉体のみになってしまうと言います。「生きること」が不可能になるのです。

 そんなこんなで、私たちが生きるために必要不可欠な切っても切れない関係となっているわけです。


 さて、そんな「カミさま」ですが、稀に牙をむきます。・・・いえ、近頃は「稀に」なんて言えなくなりました。

 彼らには特有の災害を起こす力があります。

 端的に言ってしまうと、物も動物も関係なく「白く」して消してしまう力です。

 原因は彼らが一所に集まってしまうことで発生。例えば、一本の木があったとしましょう。元々、生物には「カミさま」が憑いていますが、一定以上の憑依が起こると徐々に白色が染み込むように木を染めて、その後、景色に溶けていくように消えてなくなってしまいます。

 このことを我々は「白化(しろか)」と呼んでいます。

 以前は迷信と思われていました。人に話しても、信じてもらえないことが多かったものです。最近では人が「白化」に見舞われたという報告がほんとうに多くなりました。人の被害だけで月に10件程度でしょうか。頻繁に発生している理由は、未だに特定できていません。


 しかし、この現象を引き起こしている犯人というと、既に見当がついています。

 それは『創造主』と呼ばれる、この世界を一から創ったと伝えられる存在。いま発見されている古い史料の中でも最古とされる神話の書物にも記述されています。

 それには『創造主』が幾度も自分の創った世界を真っ白に戻していると記されているのです。

「白化」が顕著になるまでは、「はて真っ白に戻すとはなんじゃろな?」といった具合でしたが、まぁ、晴天の霹靂でした。『創造主』なるものによって「白化」が引く起こされていることは、世間一般に広まっていきました。過去の記録に記されているだけなので、信じていない人もいますけどね。

事態を収束しようと各地の学者や知識人が知恵を絞って奔走していますが、芳しい成果は出ていません。かくいう私もその一人ですが。


 そうそう、私が取り組んでいる「白化」の対策を話しましょう。全く前進すらしていない、人に話すのもおこがましい・・・しかも携わっているのは私一人だけという情けない話なのですが・・・

「白化」した人をこの世に戻すことはできないか、というものです。

 なんだかまどろっこしい事をしていると思われるでしょう。「白化」を食い止める研究とか「白化」を発生させない研究とか、いろいろあるでしょう。

「白化」を食い止める、または抑える対策ですが、有効ではあります。しかし「白化」には発症前の兆候がないのです。発症してしまえば手を付けることすらできないため、対策を施すのは困難でしょう。

「白化」を完全に無くす対策は、反対です。そもそも発生させているのは私たちの魂の大元とされる「カミさま」です。「白化」を根絶させることが「カミさま」を排除することに繋がりかねないため、これは却下です。

 他にも払う方法や予防の方法も考えましたが・・・私自身の目的もあって今のテーマに落ち着きました。


 しかし、まぁ、始めるにあたって恩人、友人、知人と方々に相談を持ち掛けたところ罵倒、説教、嘲笑と散々な目に会ったものです。倫理がどうとか、狂気に憑りつかれたか、なんて言われる始末でして・・・

 そんなに悪いことなのでしょうか。

 妻と娘に、もう一度会いたいと願うことが。

 ついでに今の問題も解決できるかもしれないというのに。

 それに、あんな突然で理不尽な別れ方に納得のいく人なんて、きっと居ないですよね?




 男は、恩人たちがその研究を止めんとする理由を、嘲笑わう理由をわかっていた。

 それは人を蘇生する行為と同等。廻る輪っかの流れに逆らうそれは、まさに禁忌だ。誰も手を付けないのは、不可能で、抗いようのないものだと知っているからだ。

 けれど、男は思う。

 恵まれない世界で見た光明も、手を取り合えた暖かさも、手にすることができた日常も。

 その全てが無に帰すというのなら、

 こんな世界など白く染まって消えればいい。

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