Prince

 さて、なけなしの金で宿屋を探そうと、城の外へ向けて歩いていると名前を呼ばれた。


「先ほど振りですね、王子殿下」

「フィルでいいよ。きみに王子殿下、なんて言われるとバカにされてる気がするしね」


 肩を竦めて彼はそう言った。


「そうですか、それではフィルさん。何のご用でしょう?」

「…少し俺の話に付き合ってくれ」

「嫌です。私は明日の準備があるので失礼します」

「準備って、きみの場合寝るだけでしょ? 付き合えよ」

「女性を誘うときはそのように強引な態度ですと嫌われましてよ?」

「寧ろこの誘い方で喜ぶ女性もいますけど?」

「あら、物好きな方もいらっしゃるんですね!」

「だから付き合えよ」

「面倒くさいのでご遠慮いたしますわ!」

「きみって強情だね、さっきまで泣きそうだったのに」

「そう言うならこの手を放してください、王子殿下」

「いやだね。お菓子もあるから付き合えよ」

「喜んで!」

「……お菓子で釣られるとか」


 フィルについていくと、中庭に案内された。

 整えられた庭園に目もくれず、マリはテーブルに用意されていたお菓子を食べ始めた。その向かいにフィルが呆れながら座る。


「女って甘いもの好きだよね」

「フィルさんって言葉遣いが悪いんですね」

「他の女性の前ではこんなに口が悪くないよ。きみの前だけね」

「ウザいですね」

「……」

「それで、話とは何でしょう?」

「きみの師匠についてだけど――」

「結構です」

「は」

「結構です」

「いや、聞こえてたけど。きみの師匠、強いよ? 分かってる?」

「分かっています。理解しています。師匠を見るたびそう思っていましたから」

「なら何であんな無謀なことを言ったのさ。絶対無理だと思うんだけど」

「師匠に、聞いてみたいことがあるんです。最後に」

「何を」

「秘密です。王子殿下には教えません。ご馳走様でした」

「食べるのはや!」


 食べかすを払い、庭園を見渡す。

 すると、師匠の家にもあった白い花が一輪、寂しそうに咲いていた。


「この花は…」

「それは【永遠の花】と呼ばれている花だ」

「永遠の花…」

「いつの間にか咲いている花。成長過程を見たことがないからそう呼ばれているんだ。正式名称はない」

「そっか」


 師匠の家にもこれが保管されていた。

 白くて球体に近い形を持つ花。とても綺麗で、マリがこの世界で一番好きな花。

 師匠に聞いても名前は知らない、の一点張りだったが、名前がないからそう言ったのかもしれない。

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