King

 30分後。門兵が入っていった平屋の建物の壁に寄りかかって空を眺めていると、さっきの兵士とローブを纏った男がやってきた。

 ベルウェント国王が直々に会ってくれるのだという。

 偉い人に会わせてほしい、と言っただけなのに国王が出てくるとは。よほどのことなのだろうか。それとも自分が処刑されるのだろうか。

 門兵は後ろにいた男は国家魔術師だと紹介し、彼が城まで魔術で運んでくれるという。

 古代ベルウェント文字は覚えられなかったマリは、よく分からない呪文を唱え始めた男を注視していたが、一瞬のまばゆい光に目をつむり開いたそこは、城門前だった。

 先程の貧相そうな門兵とは違った鎧を纏う男は、訝しげにマリを見つめると「ついてこい」と顎でしやくった。


 使用人や騎士たちに不振がられながらも、長い廊下を歩いていく。

 少し大きめの扉を前に止まった。


「この先に国王様と王子殿下がいらっしゃる。くれぐれも失礼のないようにな」

「しつれいしまーす!」

「こら!」


 2回ノックをすると、マリは入っていった。

 咎める声がしたが無視だ。知りたいことが山ほどあるのだから。


「こんにちは、はじめまして国王陛下、王子殿下。私はマリと申します。あの森に住む魔術師の弟子です」


 広いスペースに王座へ向かう赤い絨毯が敷かれている。ここが謁見の間なのだろう。

 どこら辺まで進んでよいか分からなかったため、適度な距離を保って取り敢えず正座した。


「ああ、話は聞いているよ。それで、何を知りたいんだい?」


 単刀直入に王子がそう口を開く。国王の方はマリとは目が合うもののだんまりだ。

 話が速くて助かるが、少し不気味だった。


「はい。彼は一体、何者なのでしょうか」

「随分大雑把な質問をしに来たんだね。弟子なのだからきみの方がよく知っているのではないのかい? 2年半も一緒にいたのだろう?」

「監視をしていたのならばお分かりかと思います。…私はただの、弟子です」

「フィル、そのくらいにしなさい」

「陛下」

「自己紹介を改めてさせておくれ、異世界の少女よ。わたしはこの国を治めているバルフ・ベルウェント。こいつが息子のフィル・ベルウェントだ」

「ふん」


 この二人は、やはり全て知っているのであろう。

 マリが召喚されたことも、誰によってそれが行われたのかも。

 師匠が、何者かも。


「彼は…、きみの師匠はロイ。名前は知っていたかね?」

「いえ。聞く必要性を感じなかったので何も」

「そうか。…彼は昔、この国で魔術師をしていた。とても優秀な魔術師だった。ある日彼の大切な人が不治の病にかかったのだ」

「……」


 師匠の、大切な人。

 たぶん、いつも伏せている写真立ての中にその人が写っているのだろう。


「ロイは必死に研究をしたが、その結果は実らなかった。大切な人は亡くなり、彼は禁忌を犯し始めた。それが何だか分かるかな、ロイの弟子よ」

「……魂の召喚、ですか」

「ああ。おそらく、大量の資料が彼の家にあっただろう」

「はい…」


 彼の本には偏りがあった。

「人体と魂の結合」「魂の存在」「人の死後」「魂の召喚術」「禁忌とされている魔術」。関連する本が山ほどあった。


「彼は研究と称し、様々な女性を使い人体実験をしてきた。彼女たちは勿論、帰らぬ人となったよ…。わたしは彼を国外の小さい森に追放した。しかし彼の禁忌は止められなかった」

「……」

「ロイは近くの村や町の女性を連れ去り始めたのだ。それが治まったのは2年半ほど前。きみがこの世界に来たときだ」

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