Book

 この世界に来てから、師匠の家に住んでから半年がった。

 あれから外には出るなと言われ、街にも行くのは危険だと聞いたあの日から、ずっと本を読み続けていた。

 半年で家の本約三分の一読了。中二階にある本棚には未だ手を出せず、一階の本棚半分まで床に重なっている本を片付けながら読んだ。


「少し休憩してはいかがでしょう?」

「あと少しなのでこれが読み終わったら、します」

「僕が言うのもなんですが、外へ出たいとは思わないのですか?」

「私インドアなので大丈夫です」

「…いんどあ、とはなんですか?」

「屋内での活動を好む人のことです。たぶん」

「そうですか。それはよかったです。そういえば、ここに来たのは使に連れてこられたと言いましたが、それが誰のものでどうやってきたのか、気になったりしないのですか?」


 また、ページをめくる。


「この家の本を全て読んだら考えます。知識は多くあった方が便利ですから」

「つまり二の次、と」

「そういうこっです」

「恨みとかないんですか? 自分を知らない世界に連れてきて何するんだ、とか元の世界に帰せだとか」

「師匠。私はここに来てよかったと思っています。今、とても幸せですよ」


 パタン、と少し大きな音を立てて本を閉じた。

 すると、ドアをノックする音がした。マリが出ようとするのを制し、師匠が向かう。よほど大事な客なのか、それとも何か隠しているのか。

 一瞬見えたその人物は鎧をまとっていた。大方騎士だろう。

 師匠はそのまま外へ出ていき、静かになった。鎧が削れるように擦れる音が消えた。魔術でも使ったのだろう。


 10分もしないうちに師匠は戻ってきた。


「今日は何のお話でした?」

「大した話ではありませんでした。いつ研究所に戻るのか、いつもの話ですよ」

「…戻らなくていいんですか?」

「ええ。僕にはやらなければいけないことがありますから」

「……」


 ここには様々な種類の本が置いてある。

 だが、ある種の本が多く偏っているのが分かった。


 まだ確信はしていないけれど、たぶん。

 私をこの世界に連れてきたのだろう。

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