Magic

 この世界で魔術は二つの発動法があるらしい。

 一つは国家魔術師のみが扱える高等魔術。

 師匠の魔術がそれだ。魔術で育てられたといわれている大樹の枝を削り作られた杖を持ち、古代ベルウェント文字で綴られた呪文を対象物に片方の手を向けて発する。

 もう一つは師匠が教えてくれると言った護符を使った一般魔術。

 洋紙を使えばだれでも扱える簡単な魔術だ。


 現在、マリは家の近くの沢で水を凍らせる特訓中である。


「…………」

「どうですか」

「こう!」


 ベルウェント文字で【凍らせる】と書かれた護符を使い、魔術を発動した。

 護符を中心に水が凍っていく。沢から上がり、師匠と二人でその様を見守る。威力の小さい護符だったため、範囲はそれほど広くなく、30センチ程の直径で止まった。


「どうですか師匠!」

「はい、とても良い出来です。一週間で習得するとは優秀ですね」

「師匠の教え方が丁寧で分かりやすいからですよ!」

「でも――」


 杖で護符をつつくと、氷が割れた。表面だけ凍っていたようだ。


「【凍らせる】ではダメですよ。【氷結】又は【凍結】とした方がより威力は増します」

「言葉って難しいですね…」

「まあ、魔力が強い人だと【凍らせる】だけで湖が凍ったりしますから、何とも言えませんけど」

「私は人並み程度ですもんね…」


 マリは首を垂れる。

 学校のテスト前の勉強より、頭に詰め込んで実践してみたが、想像通りにはいかなかった。

 そんな弟子を、師匠は素直に褒める。


「でもセンスはあると思います。頑張ってください。ところでそろそろお昼の時間ですが、どうしますか? 私が作りましょうか?」

「師匠は仕事ですよね? 私が、作るので大丈夫です!」


 あのゲロまず料理は二度と食べたくない。


「そうですか、ではお願いしますね」

「任せてください! そういえば師匠、私街に行ってみたいんですけどいいですか?」


 その質問で、師匠の表情ががらりと変わった。

 気温が少し下がった。そんな気がする。


「それはできない相談ですね」

「……なぜ、でしょうか?」


 小さな笑みを、彼はマリに向けた。


「この近くの大国、ベルウェントは他国の者を嫌います。昔、ここに立ち寄った旅人がベルウェントへ入国したいと言ってきたので案内したのですが、門兵に彼が説明すると問答無用で殺されました」

「……凄いっすね!」

「…………そうですね」


 今日の昼食はよく分からない鳥みたいな肉と生きているときがとても気味の悪い、野菜のような緑色の固形物の入ったスープと丸いパン。

 パンだけは師匠に作ってもらう。なぜかパンは非常に美味しかった。

 毎日焼いてもらうため、外はカリッと中はフワフワで少しもっちりとした弾力。何もつけずにそのままのが一番美味しかった。

 一度作り方を教えてもらったことがあるが、このパンは師匠にしか作れないものだと悟った。やり方を真似ても全く同じものが作れなかったのだ。


「師匠、パン屋さんをやりませんか」

「僕は魔術師ですが」

「では、店舗名は魔法のパン屋さん!」

「……」

「冗談ですって。それにしても、なんでこんなに美味しいパンが作れるんですか? コツを教えてください!」

「特にありませんよ」

「元カノさんに教えてもらったんですか?」

「……そうですね」

「なるほど~。元カノさんは料理上手…」

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