第14話 魔物生産工場
魔大陸に着いてから休まず歩き続けているが、ちっとも魔獣にも魔物にも出くわさない。
まぁ、歩きやすくて助かるというのはあるが、静かすぎて気味が悪いというのもある。
「動物がいないですね……」
ジンは時折目を細め、木々の向こうを見通すようにして、周囲の気配を探っている。
そもそもこの島、着いてから気付いたんだが生命魔力の反応が無い。
魔獣や魔物どころか、ネズミ一匹ほどの小さな動物の生命力すら感じられないから異様だ。
「姐さん、生命魔力ってなんです?」
「私の造語だ。生命魔力は、生命体に宿っている魔力のことを指す。魔力は他にも、大気に霧散してたり、物体を構成してたりと、色々な種類の魔力があるんだ。それぞれの魔力は質も量も濃度も色も、かなり違っているから判別しやすい」
「どうやって反応を確かめてるんです?」
気配を探るのと同じような感覚で行うのだが、なんか言葉にしづらいな。
気配を探るだけでは絶対に見落としが出るという欠点を補うために魔力を使っているわけだが、どう説明したものか。
そうだな……放出した気を片っ端からナビを経由して魔力の一種に変換し、薄めて広範囲に分布させる。
変換した魔力に引っかかった物体は、手で触ったような感覚として分かると言った感じか。
気配を探るより、気で辺りを覆うより、圧倒的に楽で判別し易いのが利点と言える。
まぁ、言うよりは見せる方が早いだろう。
放出している魔力の出力と濃度を若干上げて、常人でも見えるようにしてやる。
すると、森の至るところに靄のような白い空気が漂い始めた。
「ほれ、目に見えるだろ。その白い靄が私の魔力の濃い部分だな。薄い部分は目に見えないが、ここら一帯を隈なく覆っている」
「……そんな化け物染みたことができるのは姐さんくらいのものだと思いますよ」
ジンは頬を引き攣らせているが、これくらいなら練習すれば誰でも出来ると思うよ? 規模は個人差あるだろうけど。
「そもそも魔力を魔法以外に使おうという考えがぶっ飛んでるんですよねー……姐さんがこの世界の住人じゃないことを改めて実感中です」
≪それにしても生命魔力とは、極めて安直なネーミングですね≫
お前ら……何気に言いたい放題言ってくれてるよな……。別に良いけどさ……。
しばらく歩くと、森が開けて広場のようなところに出た。
そしてそこには灰色で長方形の建物がぽつんと建っている。
それは一見した感じでは寂れた化学工場の様にも見える。とてもじゃないが、このファンタジー世界に合いそうな建物ではない。
つーか、アインスの街中ではこういった建築は見なかった気がするし、建築が妙にちぐはぐになっているのが気になるな。
「なんだこの、『如何にも私は怪しいです』と主張している建物は……」
「これはきっと、魔物を生産していた研究所でしょう……!」
ジンが真剣な表情で化学工場もどきを見つめ、唾をごくりと飲み込んでいる。
研究所……うん、まあ研究所に見えなくも無い、かな。どう見ても工場だけど。
でも中からは気や魔力を少しも感じないし、やっぱり廃棄されてるみたいだな。魔王蟲もいないだろ。
「……ここで立ち呆けていても始まりません。入りましょう!」
え、なんで? 私達は魔神のいる神殿目指してるんだが?
「もしかしたら、我々魔獣が魔物に改造されてるという説が確かめられるかも知れませんから!」
いや、うん。それって明らかにお前の都合だよね?
私は魔神の神殿にさっさと行きたいんだけど。
「行きますよ姐さん!」
あ? おい! 手を引っ張るなっての!
しかも何気に力強いしこいつ……!
ああ、もう分かったよ! 行けば良いんだろ行けば!
≪よろしいのですか?≫
仕方ないだろ。ちょっと寄り道食うけど、ほんの少しだけだ。
長居になったらこいつを気絶させてでも神殿に向かえば良い。
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