第11話 話の整理

 私の雑な説明を聞いたジンは頭を抱えて唸っていた。


「姐さんは元人間で? ウチュウセン? に攫われてサイボーグ? となって、マオウチュウ? とやらを退治するためにこの世界に来た、ですか……?」


「理解できたか?」


「理解不能ですよ」


 だろうな。

 当事者でさえ考えることを放棄してるんだ。他人ではなおさらだろう。


「で、姐さんの事情を俺に話した理由はなんです?」


「お前には、この世界に降りてきた魔王蟲について知っておいてもらう必要がある。ナビ、説明を」


≪了解しました≫


「うわっ、頭の中で女性の声が!?」


 一々つまらんことで驚くんじゃない。それでもお前は誇り高き森の長の子どもか?

 長の神経の図太さを少しは見習え。


「子どもじゃないです。親戚です」


 まぁ、お前の家系なんぞはどうでも良いんだ。

 肝心なことをこれから話すから、よく聞け。


「はい……」


 魔王蟲は大量の生命体を食べる。もちろん、世界で多く繁殖しているものから食っていく。

 人間はこの世界でもかなり多い種族なんだろ? どうせ。


「そうですね。人間が一番多く、魔族が次いで多いかと」


 ということは、人間が多く住む町などが魔王蟲に狙われている可能性は極めて高い。


 だが、ギルドの雰囲気や依頼表を見る限りでは魔王蟲の影響が全く見られない。

 人命に関する情報は、冒険者組織や国の上層部が早期から掴んでいることが多く、対処に乗り出すのも速いはず。

 にも関わらず、そういった影響が微塵も見られないということは、人間族はまだ魔王蟲の被害に遭っていないと推測できる。


 しかし、魔王蟲がこの世界に降りて数日は経っているんだ。

 ナビ、魔王蟲はまだ活動していないと思うか?


≪過去のケースから判断しますと、魔王蟲は既に活動を開始しています≫


 となると、今こうして説明している間にも、この世界の生命体が大量に捕食されていることになる。

 だがさっきも言った通り、人間に関しては魔王蟲の影響が見られない。

 つまり、まだ人間がまだ捕食対象として選ばれていないことになる。やがて選ばれるだろうがな。


「待ってください。人間が魔王蟲の捕食対象外ということは考えられないんですか?」


 人間が魔王蟲の対象外だったら……そんなことはありえない。だろ? ナビ。


≪はい。魔王蟲はその星で尤も力を持っている種族から捕食し始めます。捕食開始時から産卵に至るまでの速度は異常であり、蟲兵は爆発的に増加します。ゆえに、人間の住んでいる地域で魔王蟲が活動を開始していた場合、既にこの星の人間は滅亡している公算が高いです≫


 だがこの世界でもなかなか繁栄している人間は滅亡していない……ということは、だ。

 きっといるんだろ? 強い力を持った魔物の群れとか魔族とか、そういったやつらを統率する魔王ってやつが。


「ええ、います。しかし……いや、確かにそう言われれば、ここ数日は森にいる魔物たちが妙に怯えていると長がおっしゃっていました。まさか……その魔王蟲が?」


 その可能性は無いとは言えんな。で、魔王はどこにいる?


「ここから北西に進み、海を越えたその先に、凶暴な魔獣が闊歩している島があります。その島は通称『魔大陸』。歴代の勇者たちが力を合わせて挑んでも倒せなかった魔神が、神殿の奥深くに封印されていると言われています」


 魔神? 魔王じゃなくてか?


「魔王は魔族を束ねる長として世界に認知されています。人里離れた地域にいるところは魔神と変わりませんが、数世代前の魔王が魔族の国と人間たちの国を和平に導きましたからね。今では人間たちと交易もしていますし、少し毛色の変わった人間と変わりはしませんね。強さも人間より少し強いくらいです」


 魔神は?


「魔獣たちの創造主と言われている強大な存在です。人類と魔族の共通敵とされていますね」


 ところで、お前は魔獣じゃなかったか? 魔神のことはなんとも思ってないのか?


「……魔神が封印されてから、私たちを含む多くの魔獣はその支配下から完全に脱却していますから、執着とか忠誠心とかはありませんね。ただ、未だにその影響下から脱却しきれてない者たちが、魔大陸に住み着いていると言われています」


 そうか。じゃあ、行くべきところは決まったな。


「魔大陸、ですね」


 ああ。だが、お前はここで留守番していても良い。

 魔神に執着は無くとも、同族を殺すのは辛いだろう?


「いえ、私たちの一族はもう長い時を人間と共に過ごしてますからね。気持ちも人間に近いですから、何の問題もありません」


(足手まといだから置いていこうと思ったんだが、そう上手くはいかないか……)


≪そもそも連れて行くように上司から指令が出ているのでは?≫


 んなもん無視するに決まってるだろう? しかし、物事はそうそう上手く運んでくれないな。


「姐さん? どうかしました?」


「いや、なんでもない。決まったからにはさっさと行くぞ」


「はい!」

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