第10話 冒険者ギルド

 ジンの案内によって、すぐ森を抜けることができた。

 流石は現地ナビゲーターとして森の長が勧めただけのことはある。頼りになるね。

 私の頭に居候しているナビとは、お役立ち度が全然違うよ。


「流石といったところかね」


「お褒めに預かり光栄の至りです」


≪何度も言ってますが、私は道案内専門のシステムではないので≫


 まぁ、良いよ。十分わかってるし。

 とりあえず、近くの町に行って情報収集でもしようかね。


「ジン、案内はよろしく」


「お任せ下さい! 近くて安全な道をご案内します」






 とは言ってくれたものの、そうそう簡単に物事が上手く運ぶ筈がないのであった。


「おう! 兄ちゃんに姉ちゃん! 身包み置いてけば命だけは助けてやるぞ!」


 使い古したボロボロの鎧を着、布きれを纏い、刃毀れしているナマクラ刀をこちらに向ける八人の男達。

 それと周囲の木陰に身を潜め、弓を引き絞ってこちらの胴体に狙いを定めている男が四人。

 総勢十二人の盗賊達に遭遇した。冒険ファンタジーのテンプレと言えばテンプレである。


「姐さん、どうします?」


 どうするも何も……なぁ?

 売られた喧嘩は買うしかないだろうよ。


「ですよね。しかし、姐さんの手を煩わせるまでもありません。私がやりましょう」


 さいですか。どうでもいいけど、さっきから私喋ってないよね? 心の声漏れてる?


≪伝えて良さそうな心の声は私がテレパシーで届けています≫


 あっそう……。

 便利っちゃ便利だが、なんだかなぁ……。

 あ、ジンよ。なぜか相手に殺気が無いから、戦闘継続不能状態で勘弁してやってくれ。後で町の衛兵にでも引き渡そう。


「了解!」


 ジンは返事をすると共に、腰に佩いていた細剣を一瞬にして抜き払った。

 高域の甲高い響きが光の輪となって周囲に拡散し、盗賊達を一瞬で昏倒させた。 


 ……なにこれ、魔法?


「風に属する魔法ですね」


 刀を鞘に収め、ジンは何事もなかったかの様に言う。

 うん、魔法ってなかなか凄いもんだわ。実力差があるとは言え、一瞬で戦闘を終わらせてしまった。

 範囲も広いし、威力もなかなかだし、それにカッコいい。弓兵四人も洩らさず気絶させている。流石のファンタジーだ。

 私も魔法を使ってカッコ良く戦ってみたかったなぁ。


「姐さんは魔法を使わなくても充分過ぎるほど強いじゃないですか……」


 ジンはそう言ってくれるが、私はまだまだ甘っちょろい小娘に過ぎない。

 魔法もまだ実践で使ったこと無いし。


「姐さんが真剣に魔法を使うと世界が壊れそうなので止めて下さい」


 ジンの顔が蒼白なんだが、そこまで私の魔法が怖いか?

 いや、見ても無いのにその判断は過剰だろ。

 何がそこまでお前を追い詰めているんだ……。






 話半分で切り上げて、道中を急いだ。盗賊達は放っておくわけにもいかないので、私の背負い袋に入っていたロープでふんじばって引っ張ってきている。

 幸い他の盗賊も魔物も襲ってくることはなく、さくさく歩を進められた。

 僅か10分ほどで町に辿り着いたことからもその順調さが分かるというものだ。


「姐さん、ここがアインスの町です。ここいら一帯では一番大きな町ですよ」


 ジンが自慢げに町の紹介をしてくれているが……お前は狼だったよな?

 なんでそんなにここらの地理や、人間の町に詳しいの?


「それは秘密というものです」


 ウインクされても私はときめかないぞ? 今のお前の見た目はどこにでもいる凡夫だからな。まぁ、イケメンだったとしてもときめかないけどな。


「そうですか……」


 項垂れるジンの背後の方で、盗賊達が町の衛兵さんに連行されている。

 目に見えないところでもちゃんとお仕事やっている衛兵さん、いつもご苦労様です。


「町は広いですからね、軽く案内しましょうか?」


 それじゃあ、お言葉に甘えよう。

 ジン、旅人に仕事を斡旋する場所はないか? あるなら寄ってみたいんだけど。


「それなら冒険者ギルドがそうですね。ほら、すぐそこです」


 ジンの指差した先に、二階建てで少し大きめの建物があった。

 あれが、多くのファンタジー小説でよく見る冒険者ギルドらしい。

 ジンの後ろについて、ギルドに入る。


 ギルドの中は閑散としていた。併設されている酒場にもマスターが一人いるきりだ。

 どうやら冒険者の方々はお仕事中らしい。実に感心なことだ。

 ジンは狼だが、冒険者に登録してたりするんだろうか?


「あ、これでも俺は『疾風の黒』っていう二つ名持ちの冒険者ですよ。ランクは6です!」


 ドヤ顔するな。お前の二つ名やランクなんかどうでも良いんだ。

 登録してるなら話が早い。受付に言って資料室だか会議室だか借りてくれ。

 お前に話しておきたいことがあるからな。


「分かりました。あの、姐さんはギルドに登録しないんですか?」


 そのうちにな。


「姐さんとパーティ組みたいなー、なんて……」


 そのうちにな。


「はい……」


 ジンがとぼとぼと受付に向かっている間、私は依頼が貼られている掲示板を見ていた。

 今の時間帯では特にめぼしい依頼は見当たらない。常設の薬草採取とか迷子の犬探しとか、冒険者じゃなくてもできそうな簡単な依頼ばかりだ。


≪魔王蟲の影響は見られませんね≫


 まぁ、ギルドの依頼だけじゃ分からんさ。


≪ギルド内に漂っている思考信号には、大量被害の情報や危機感は見られません≫


 そっか。じゃあ、後でジンと少し相談をしてみよう。

 魔王蟲についても、この星のことだから一応話してみても良い。


≪信用されないかも知れませんよ≫


 駄目で元々さ。

 それに、上手くいけば人間以外の視点からの情報が手に入るからな。

 話してみる価値はあるだろ。


「姐さん、鍵を借りましたよ。地下の資料室です」


 よし、じゃあ行くか。

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