第6話 星に降り立つ
ということで、私は魔王蟲が放流されたとされるファンタジーな惑星に送られることになった。
惑星の名前はRCP-553058827394というらしい。
情緒が無い名前だって? 私もそう思う。
でもまぁ、仕方のないことでもあるとは思う。
なぜならば、機構の観測下に置かれている惑星は無限と言っても良いくらいあるそうで、一つ一つに情緒ある名前なんかつけていられないそうだからだ。
私的には納得できる理由だった。でもやっぱり情緒がないというか、つまらん話だ。
さて、私は現在どこかの森の中に一人で突っ立っている。
ちなみに未来から過去に送られたサイボーグみたいに裸ではない。
ちゃんと服は着ているし、現地人として違和感のない格好となっている……はずだ。
パッと自分の体を見下ろした感じでは、布のシャツの上に革のジャケットを羽織り、厚い生地のパンツを履いているように見える。
と言うか、それ以外に見えない。多少の防御力が見込める割には動きやすく、機動性が保たれているのがファンタジーっぽくて良い感じだ。
どうもこの格好は、この惑星で活動する現地の冒険者の一般装備とのことらしい。
背負い袋と一緒に、おっさんが準備してくれたものだ。他にも役に立ちそうな物が幾らか、袋の中に入っているらしい。
詳しくは中を見ていないので知らないが、気が向いたら後で確認してみよう。どうせ冒険者セット一式とか野営セット一式とか、そんなんに決まってるしな。
だが今は、森を出ることを一番に考えなければならない。
時間は有限で、その上短いのだ。
期間は一ヶ月。星が滅んでしまうその前に、さっさと魔王蟲を駆除してしまわなければならない。
それに、剣と魔法のファンタジーというからには、魔物や魔族などもいるに違いない。
もしかしたら邪魔をしてくるかも知れないし、用心しておくに越したことはない。
一応、念のために脳内ナビゲーションをオンにしておくことにする。実感は無いが、念じるだけで良いと言っていたからこれで大丈夫なはずだ。
あとは少し柔軟体操を行っておくことにするか。
よし、今日も身体に特に異常は無い。調子も上々、いざ出発。
歩き始めてから三時間が経過した。
道中で襲ってきた動物を何体か屠り、木に擬態した魔物らしき得体の知れない生物を何体か屠った。
ときどき全力で走ったりもしたが、森から出られる気が全くしない。
むしろ迷ったかも知れない? あれ、遭難? これってもしかして遭難か?
≪マスター、正確には二時間五十七分四十二秒歩き回っています。ちなみに遭難はしていません。現状は極めて順調です≫
この脳内に響くナビゲーションが、さっきから全く役に立っていない。
森の外に出る道を教えろと念じても、うんともすんとも言わないのだ。
そのくせ、戦うときにはあーしろこーしろと煩いことこの上ない。
むしろ森の中を彷徨わせ、無暗に動物を狩らせてる気しかしない。
ナビゲーションなんだから、道くらいちゃんと案内してくれよ……。
≪私は道案内のためのソフトではありませんので≫
じゃあ一体何のためのナビゲーションなんだよ……。
≪魔王蟲駆除において必要な技能を得ることが今作戦の目的となっています≫
え、作戦とか初耳なんだけど? まぁ、もう慣れたから良いけどさ。
直接魔王蟲のところに降ろさなかった理由はなんなんだよ?
≪マスターの力量不足を補うために、戦闘技能の調整場所が必要でした≫
……今の私では魔王蟲に勝てないと? そうお前は言うのか? 私の頭から引っこ抜くぞ、お前。
≪落ち着いてください、マスター。魔王蟲がこの惑星に降りてから、約五日は過ぎています。蟲は既に巣穴の場所を確保し、戦闘兵も多く産んでいると思われます。今のマスターでは多人数に囲まれたら何の抵抗も出来ずにスクラップにされるだけでしょう≫
だから森の中で修行しろってか?
≪修行とまでは言いません。ですが、多少は身体の動かし方や私にプログラムされている各機能の使い方を覚えてもらう必要はあります≫
だが、そんな時間は無いんだろう?
≪いえ、マスターは気づいていないようですが、道中の魔物狩りで幾分か条件を満たしました。次の条件を満たしたら、この森から脱出する経路をナビゲートします≫
分かったよ。
で、その条件って言うのは?
≪魔法を覚えて、実践で使いこなしてもらいます≫
え、面倒くさいんだけど。
気を練って殴るだけで良いじゃん。
≪覚える気が無いなら、この惑星が滅ぶまで森の中を永遠に彷徨ってもらいます≫
おっけー、分かった。すぐに覚えてやるからさっさと教えろ。時間が無いんだろう?
≪やる気が無いなら無理して覚えなくても結構ですよ?≫
覚えなきゃ森から出す気が無いんだろ? 良いから教えろ。
≪教わる者の態度じゃないですね≫
……引っこ抜くか。
≪すみません、謹んで教えさせていただきます≫
最初から素直にそう言えば良いんだ。お互いに無駄な時間を浪費したな。主にお前のせいだけどな。
≪え、でもマスターが≫
何か?
≪イエ、ナンデモナイデス≫
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