第六十八話 私は独りで、でも幸せ

「なんで今頃?」

「分からない。でも、あの時は全然気がつかなかったんだ。みんな華やかで、魅力的で、君がそこにいたことすら気がつかなかったんだ」

「……」

「僕があれこれ目移りしている間に、みんなそれぞれに素晴らしい伴侶を捕まえた。僕は取り残されてしまった。そんなことしてる場合じゃなかったのに」

「……」

「独りにされて初めて、僕は自分がすべきことを知った。そして君を見つけた。だから……」


 私は苦笑する。彼はこれまで、その舌先三寸でどれほど女を食い物にしてきたんだろう。ずっと独りでいる私が焦っているとでも思ったのだろうか。はは。


「あのね」

「なに?」

「あなたはとんでもなく大きな勘違いをしている」

「えっ?」

「あなたは、私があの頃とは違う、変わったと思ってるでしょ?」

「ああ。きれいになった」

「私は何も変わってないの。なあんにもね。あの頃と違うのは一つだけよ」

「どこ?」

「私は一つきりで咲いてるの」

「……」

「それだけよ。じゃね」


 咲き初め。

 残花。


 たとえそれが同じ花であっても、群れずに一つ。凛と咲く花。



【 了 】

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