第五十一話 三色灯

【青く灯る】


 冷たく透き通った青い光。

 だが青い光は、小さくても強く輝く。


 それは誰かを導く光ではない。

 己がそこにあることを誇示する光。

 孤灯。


 君は、その青い光の鋭さ、無情さにたじろぐ。

 光に突き通され、身を食われるかのような錯覚に陥る。


 だが、青い光はそこにいる。

 ずっと独りでそこにいる。


 君が離れれば、それはほんの小さな輝点に縮む。

 そして視界から消える。



【赤く灯る】


 何もかもを焼き尽くすかのような赤い光。

 それは、離れて見れば心を温める光に見える。


 だが、遠くから招くように思えたその光は。

 君が近付くにつれて、君の身をじりじりと焼くようになる。


 ちょうどいい光と熱。

 君の望んだバランスは、適えられることはない。


 温和な熱を望めば光は弱くなり。

 明るさを望めば、君は焼け落ちてしまうのだから。


 何もかも集めて溶融しようとする灼熱の赤い光。

 君は、そこへ行くか、遠ざかるかを決めかねている。



【黄色く灯る】


 白光びゃっこうは、眩し過ぎて見つめていられない。

 少しでもいいから、色が欲しい。


 そうして、黄色の光が誕生した。

 まだ、何一つ定まらないままに。


 君は戸惑う。

 自ら強く輝けば色は光に飲み込まれ、褪せて行く。

 光を和らげて色を欲せば、熱は冷めて赤く凝る。


 君はいつも思うようになる。

 照らすこと、照らされること。どちらが是なのか、と。


 不安定な黄色光の束はくるくる回る。

 君から出て、君の中へ。



【三色灯】


 ああ、そうさ。


 わたしも君も、灯しているのは小さな色のない光だ。

 それを三色のフィルターで色付けしているだけなんだよ。


 まるで、わたしであるかのように。

 まるで、君であるかのようにね。



【 了 】

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