第五十話 花と影

 花に私の影が落ちる。

 それはただの光の濃淡に過ぎない。

 私が退ければ、花はすぐさま色を取り戻す。影が花を損なうことはない。


 それは、あなたに落ちる私の影に等しい。

 もしあなたが翳っても。私が退けば、あなたは再び輝くのだから。


 ……何もなかったかのように。


◇ ◇ ◇


 花が花の影を落とす。

 花の影には、花以上の意味も価値もない。それは花の残骸に過ぎない。

 花が散ると同時に花影は消え失せ、影があったことすら残らない。


 それは、失われたあなたの影に等しい。

 私があなたをどんなに照らしだそうとしても、それはあなたという形の影すら落とせない。


 ……もう二度と。



【 了 】

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