第三十一話 骨

【骨休め】

 休んでいる間に居場所がなくなるんじゃないか。その恐怖に追われて休めない。骨どころか、爪先ほども休められない。忙しく動き回っているうちに骨がすっかりすり減ってしまい、休まるどころか無くなってしまう。


【骨折り】

 誰かのために誠意を尽くす。必ずしも、それに見合った誠意が返ってくるとは限らない。でも、期待は実体以上に膨らむものだ。それは骨を補強する肉にはなってくれず、剥き出しのままの骨に寒風が容赦なく吹き付ける。折れてしまえばいいと言わんばかりに。


【骨を埋める】

 そこに固執することは、可能性を捨てることだ。定点に留まれば、そこから見えるものは限られる。世界が縮まり、そこに閉じ込められる。それを幸福だと思い込もうとすれば、それ以上の幸福は二度と得られなくなる。


 ……と言っていた連中は。今、どんな骨になったのだろう?


【無骨】

 骨がないのに、頑丈な外形なのは理不尽じゃないか。それは誉め称えられることではなく、恐怖と共に語られることのはず。それなのに、ただ粗野で乱暴者の男が高評価されるのはおかしくないか?


 海月くらげが文句を言う。


【換骨奪胎】

 骨をすげ替え、胎児を奪い取る。それだけ傍若無人の限りを尽くしても、なお自分のものだと偉そうに胸を張る、あんたってやつ。


 ああ、そうさ。それをコピーの俺がぶつぶつ言っても説得力ないよな。


【屋台骨】

 全体を支えるなら、骨じゃなくて、鉄筋を使ってください。骨には負担が重過ぎます。ひぃ。


【骨身にしみる】

 それは順序が違うでしょ。まず身が凍みて、最後に骨が凍みるんだよね? え? ぐだぐだ言わないで、そのぬるま湯から出ろって?


 やだ。


【無駄骨】

 いや、最後はスープを取るから、無駄な骨なんかないよ。


【気骨】

 そんなふわふわした骨は、カルシウム不足でとても使い物になりません。


【骨子】

 大事な部分を要約して子供に任せるのは、いかがなものかと思うぞ。


【老骨に鞭打つ】

「お客様。展示されている化石の骨を叩くのはお止めください。壊れます」


【恨み骨髄】

 骨髄の中に、プリオン蛋白がぎっしり詰まっています。


【骨を掴む】

 あ、それね。ほねをつかむ、じゃないの。コツをつかむ、なの。


【骨肉の争い】

 ええー? 僕らはケンカしたりしないよー? 骨だけじゃ動けないし、肉だけじゃ立てないもん。


【骨と皮】

 肉は家出しました。


 じゃあダイエットに失敗すると、骨は隠居生活に入ったって言うのかね?


【骨を拾う】

 責任取らない奴ほど、そう言うよな。


【骨】

 あーあ。これだけ憎まれ口を叩き続けるのも、なかなか骨だわ。



【 了 】

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