第三十話 コード

 誰かと誰かを繋げるためのコード。両端はプラグ。


 お互いに、手に持ったコードの端のプラグを相手に差し込めば、それで接続は完了する。


 それなのに、繋がったコードの中を何も行き交わない。電流も通らず。信号も通らず。繋がったことでコードに拘束され、ただ身動きが取れなくなっただけ。


 苛立った君は、自分のプラグを抜く。でも、抜いても何も変わらない。その変わらないことに。


 ……君はもっと苛立つ。


◇ ◇ ◇


 無数のコードが張り巡らされ、一本一本はか細いはずなのに、それがまるで全てであるかのように空を覆う。


 ノイズ。コードを通過してくるものは、君には何の意味もない。


 そんなものは一本残らず取っ払って。誰にも関わらず、誰にも拘束されず。自由に、どこまでも自由に。君はそう夢見る。


 でも君を駆動しているのは、紛れもなく電源のコードだ。それを抜き去れば、君はすぐに動かなくなる。


◇ ◇ ◇


 君は、無数のコードの束だ。


 神経。血管。そして、もろもろの意思と感情。


 有形、無形のコードの束。

 君はそれらを抱いて、切なく空を見上げる。


 手を伸ばし、そこに自分のコードを繋ごうとする。


 自分のコードを……繋ごうとする。



【 了 】

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