第二十九話 してはいけない

『飲む前に振らないでください』 (炭酸飲料)


『分解しないでください』 (百円ライター)


『混ぜないでください』 (塩素系漂白剤)


『食べないでください』 (乾燥剤)


『濡れた手で触らないでください』 (ドライヤー)


『いっぺんに火を付けないでください』 (花火)


『再冷凍しないでください』 (冷凍食品)


『お子さんを乗せないでください』 (スーパーのカート)


『水没させないでください』 (携帯電話)


『調理用以外の用途に使わないでください』 (包丁)


『隙間に指を入れないでください』 (扇風機)


『改造しないでください』 (モデルガン)


『暗証番号を人に教えないでください』 (銀行口座)


『扉を長時間開放しないでください』 (冷蔵庫)


『衣服を温風孔の前で乾かさないでください』 (ファンヒーター)


『振り回さないでください』 (傘)


『踵の部分を踏まないでください』 (靴)


『大人は乗らないでください』 (公園の遊具)


『空焚きしないでください』 (土鍋)


『水を吸い取らないでください』 (掃除機)


『ペットの毛を乾かさないでください』 (電子レンジ)



 禁止と制止は違う。前者は強制であり、後者はお勧めに過ぎない。実際には強制力を伴う禁止はごくわずかであり、ほとんどが制止に留められている。


 制止を無視すれば、その結果は全て我々自身が負わなくてはならず、製造者はどのような事態が起ころうと責任を分担しない。それだけのことだ。


 そして書き並べられた数々の制止の言葉は、時にそれ自身が甘美な誘惑に変わることがある。


 してはいけない、が誘発する悲劇トラジディ


 それは、話のネタで笑い飛ばせるものから、一生を一瞬で台無しにしてしまうものまで……様々だ。


 してはいけない。


 あなたは、その制止を受け入れている?

 本当に? 心から? そう思ってる?



【 了 】

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