第七話 緋色の研究

 ホームズは、一枚の真っ赤な落ち葉を手に、ワトソンに語りかけた。


「なあ、ワトソン君」

「うむ?」

「この時期に全てのものが赤くなるなら、私はなぜそうなるかを考えないんだがな」

「ほう。名探偵にも解き得ない謎があるのかい?」

「凡そ、この世の中に解き得ない謎なんて存在しないよ」

「……」

「世の中は全て事実の積み重ねで構成されている。私たちの思考が事実でないものを手繰ってしまうから、なかなか事実に辿り着けないだけさ」

「じゃあ君は、なぜこの木の葉が赤いのかを考えているのか?」

「そうだ。それが無駄なことだと思うかい? ワトソン君」

「いや……君のことだから、それには何か意味があるんだろう?」

「ははは」


 ホームズは、手にしていた一枚の落ち葉をひょいと机の上に放ると、ワトソンの方に向き直った。


「ほら、君は今事実から遠ざかるような発言をした。それを際限なく繰り返すから、世の中は混沌の中に落ち込んでいくんだよ」



【 了 】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る