第五話 真昼のお化け

「真昼のお化けは怖くないよね? だって、見えないもの」


 彼女はそう言うと、目の前にある何かを振り払うようにぱたぱたと手を振った。


「ふうん……。僕なら逆に考えるけどなあ」

「逆?」

「そうさ。見えるものは怖くないよ。怖いのは見えないものさ」

「……」

「だから、夜のお化けは怖くない。見えるからね」


 僕も、目の前にふわふわ飛んでいるものを捕まえるように、手を出してぎゅっと握った。


「見えない、昼のお化け。そっちの方がずっと怖いよ」


 僕も彼女も。

 誰の目にも見えない存在。


 そうさ、僕らは真昼のお化け。

 本当はとても怖いのに、だあれも怖がってくれない。



【 了 】


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