第四話 政治の話

 いや、俺に堅い話をしろってのは無理だよ。俺は豆腐なんだから。


 議論なんか吹っかけられた日にゃ、煮えて、すが立っちまう。分からんちんは豆腐の角に頭をぶつけて何とやらって言うが、臭い石頭をぶつけられる俺の身にもなってくれ。


 豆腐ってのはすぐに臭い移りするんだよ。加齢臭やら老人臭やらたかってる石頭をぶつけられちゃあ、潰れた上に臭くなるだけだ。そんななあ、誰も見向きもしねえ。


 けんぽーかいせー?


 ああ、拳法快晴ね。晴れた日に体を思い切り動かすのはいいことだ。もっとも、俺が体を動かしゃえらいことになるが。


 鍛えたところで豆腐は豆腐さ。鮮度が下がって、味がぐんぐん落ちるだけよ。俺は、冷たい水の中でじっとしてる方が旨いんだよ。


 なに? おまえは他所様に食われるのを座視して待つのかって? しゃあねえだろ。豆腐ってのは食われるのが商売だ。


 俺様を食っても百年。食わなくても百年。どんな王様も、ばかたれも、それ以上はでけえ顔を出来ねえことになってるのさ。


 国がどうのこうのってなあ、俺に言わせりゃあほらしいことさ。百万年前には、国どころかニンゲンすらいなかったんだぜ? 違うかい?


 おぎゃあって生まれた時に俺は豆腐で、あんたはホモ・サピエンスだってだけで、それ以上の意味は何もねえな。


 ああ、久しぶりに熱く語ったぜ。すっかり煮えちまった。湯豆腐だ。これ以上ぐだぐだにならねえうちに食ってくれ。


 あん? 俺の名前?


 食っちまう豆腐の名前を訊くなんて、あんたも大概物好きだな。まあ、いいけどよ。



『まさはる』さ。



【 了 】

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