第二話 鳩

 公園で、ベンチに浅く腰掛けて鳩に餌をやってるおっさんがいる。あちこち鳩の糞だらけになるから止めて欲しいんだが。


 そうは言っても、あのおっさんがここで餌をやろうがやるまいが、鳩はここに集まって傍若無人に振る舞うんだろう。申し訳ないが、俺は態度がでかく見える鳩が好きになれない。


「おっさん」

「ん?」


 虚ろな目をしたおっさんが、けだるそうに俺を見上げた。


「ここは俺が許可取ってパフォーマンス見せてるとこなんすよ。路面、糞だらけにされると稼ぎに響くんす。餌やるなら他でやってくんないかな」

「俺がどこで餌やろうが勝手じゃねえか」

「あんた、看板見えてる?」


 俺が指差した方向には、『鳩への餌やり禁止』の大きな文字。


「あんたがここで餌やろうがやるまいが、鳩はどっかでメシ食って生きてんだよ。偽善は止めてくんないかな」

「偽善か……」


 おっさんは、手にしていたポップコーンを路面に撒かずに自分の口に押し込んだ。


「そうかもな。まあいいよ。これが俺の最後の食いもんだ。それを俺が食うか、鳩が食うかの違いさ」

「はあ?」

「俺は、おまえみたいな偽善者を見ると虫酸が走るんでね」


 そう言い終わらないうちに、ものすごい爆音がして。おっさんも、俺も、ベンチもばらばらにぶっ飛んでいた。無事なのは、さっと飛び立った鳩どもだけ。


 ああ、くそったれが。何が平和の象徴だ。今度生まれ変わって来る時には、絶対に世界中の鳩を食い尽くしてやるっ!


◇ ◇ ◇


 くるっくー。



【 了 】

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