砂と風

乃上 よしお ( 野上 芳夫 )

第1話 Down on the Sand(砂上の挫折)

 ......俺は、たぶん砂の上にいる。


 青い空を見ることはできる。

 だが、横も下の足の方も、首を動かすことができないので見ることができない。


 砂が顔を叩いて、はらはらと地面に落ちていく。


 ——ここは間違いなく砂漠だ。

 そして戦場だ。


 記憶をたどりながら、しだいに自分の置かれた状況を認識する。それは誰かが教えてくれるのではなくて、自分自身に説明しなければならないのだ。なぜなら、それを理解するのが遅くなるほど、俺は死に近づいていくのだから......



 砲弾の炸裂する音が聞こえる。

 一発目は鈍い音だ。

 砂の上に落下した。


 二発目はヒットした。

 燃料に引火したらしく、爆発音はいっそう大きくなっている。

 何人が死んだのだろうか?


 突然の空爆だった。

 誤爆かもしれない。

 俺たちの場所は、味方には正確に緯度と経度で知らされているはずだった。


 ただ、訓練の甘い地元の味方のパイロットが、目視で爆撃した可能性はある。


 俺たちの居場所は、そのくらい敵の陣地に近かったのだ。


 外人部隊だからだろうか?

 盾にされていたのだろうか?

 無意識のうちにも、ヨーロッパの正規軍には、俺たちを最前線に送ろうという思いが働いていたのかも知れない。


 もともと、欧州の国の人間が戦地でたくさん死んで批判されたので、この外人部隊が発足したのだ。


 ......犬死にはイヤだ。


 まだ砲弾から距離がある。

 逃げなければ......。


 こんなカタチで人生はあっけなく終わるものなんだろうか?


 それも仕方がないだろう。


 ここに来た時から俺はわかっていた。

 いつかこんな最後がくるだろうと。


 偽名の軍登録だから、名もない戦士だ。

 タロウ・ウラシマの墓なんて、みんなジョークとしか思わないだろう。


 ひょっとしたら、死体さえ回収されないかも知れない。


 仲間のタカシくんに埋葬費用は渡してあるので、やっぱり墓に入れてほしいかも知れない。

 なんとか、本部からタカシくんに連絡がいけばいいのだが......。


 そうすれば、誰かが花をたむけてくれないとも限らない......。


 俺の頭に、西部劇のヒーローの哀しい最後が浮んでくる。


 インディアンの矢が腹に刺さってジワジワと死がせまる。

 それでも彼は動けない。

 死の匂いを嗅ぎつけたハゲタカたちがやって来る。


 まだヒーローは息があるが、ハゲタカたちは容赦しない。


 彼の眼をついばみ、内臓を喰らう。


 ......ゴメンだ。

 そんな最後は、本当にゴメンだ。


 ......誰かが来た。


 味方だった。

 俺は運がいい。

 まだ死んでいないところを見つけてもらえた。


 ......ハゲタカたちは、ひとまず

 去っていった。


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