ふつうの愛でいいですか?

乃上 よしお ( 野上 芳夫 )

第2話

 赤坂見附駅からは、丸ノ内線で会社の田中くんと一緒に乗ることになったけど、となりに座るようなことはしなかった。


 気にならないといったらウソだけど、

 それほど親しいわけでもないし。


 会社の業務連絡で話しする程度で、飲み会で少し接近することはあっても、冗談を言えるような仲じゃなかった。


 今朝の私は化粧ノリも良くないし、髪のまとまりもイマイチだった。


 接近するのはベストコンディションで!

 ...これは適齢女子の基本だよねー。


 やはり彼は疲れているようで、座るや

 いなや眠りこけた。

 虎ノ門駅では乗客が沢山降りる。


 田中くんの空いたとなりの席に、

 長身の男が座った。

 デカい。

 田中くんの1.5倍はありそうだ。


 今まで、あんなにデカい人とは、

 付き合ったことが無いけど、

 あの、キスとかする場合って、

 どうやるのかな?


 私が背伸びして、彼が背中を丸めて...

 んー、やっぱりわかんないな。

 外国人だったら、間違いなく私を抱えて

 チュッ、て感じだろうね...


 あっ、田中くん何かヤバイかも。

 爆睡してるから、電車が揺れる度に

 デカ男くんの肩に頭が当ってる。


 デカ男はロン毛で革ジャンの、

 かなりのワイルド系だ。

 いやそうな顔してるよ...

 からまれたらマズイよね。


 田中くんがまたもや、ゆらっと

 デカ男のほうに...


 キターッ!


 デカ男のカウンターのショルダータックル。

 ちょうど田中くんの頭が肩に落ちる

 タイミングで、デカ男が自分の肩を

 上げた。


 田中くんは驚いて目を開けるけど

 肩パンチがキマッてるから

 顔がヘン...なんかがっくりだよなー。


 田中くんはバツが悪くなって、空いた

 端っこの席に移っていった。


 その田中くんとデカ男の間に

 私のオバンが現れて、ニヤニヤしながら

 座っている。

 もちろん彼女は、私にしか見えていないけど。


「いまの結構面白かったよねぇ。

 この田中くんは天然でのんびり屋さん

 だけど、性格は悪く無いんだよ。

 私は見ていて面白いから、時々一緒に

 いるんだけど...」


 なんかオバンの話を聞いていると、

 ひょっとして、私と田中くんって

 何かのご縁があったりして...。

 ......まさか。


 そんなことを考えてるうちに、電車は

 上野に着いた。

 田中くんはまだ端っこの席で寝てる。


 このままだと乗り越して稲荷町まで

 行っちゃうから、起こしてあげないと。


「田中くん!上野着いたよ」


「あっ、ありがとう。

 助かったよ、青田さん」


 まったくしょうがないヤツだな。

 でも、なんか憎めないとこもあるんだ。

 田中くん、会社では調子上げてくれるかな?

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