新着小説から見つけて一気に最新話まで読みました。この作品には不思議と、読者をずっと物語に留めておく魅力があるような気がします。読み進めるたびに引き込まれ続ける、ではありません。初めから私は物語の中にいて、それからずっとそこにい続けるような感覚でした。
舞台背景や登場人物の心情、時間軸、どれもが丁寧で、かつ空白に穿たれています。主人公が独白でやけにいろいろなことを悟っているけれど、それに反対したり対立したりする他者の考えは語られません。行く先々や人々との接触についても、最低限の言葉しか並べないように配慮されているかのようにさえ思えます。ですがその描かれない空白は、読む私たちの中では空白ではなくなっていきます。語られないもどかしさよりも、想像して埋め合わさっていく歓びを覚えます。それはまるで、キャンバスの真ん中に薄いパステルで描かれた情景がひとりでに色の濃さを増し、さらに描かれない外の縁まで広がっていくような、本当にまさにそのような感覚でした。(あくまで個人的な感覚ではありますが)
希望も絶望も取り立てて迫りこない、鬱屈とした空気があっさり目に沈殿した世界観に、主人公が「魔女」に抱く淡い思慕がよく映えていました。揺れ動きながらも純粋になっていく主人公の愛情は、暑苦しく語られていないにもかかわらず印象的で、いつまでも心に染みわたって消えません。
追 記:
「タバコの魔女」の人格設定や行動の特徴が、実際は理由も根拠も描かれていないのにあまりにリアリティに溢れているように感じるのは私だけでしょうか...