その時、教授は誰よりもロックだった。

ホワイトハウスの回りに今までに見たこともない異常な数の報道陣が集まっている。

人種も、言葉も、国籍も違っているがある種の一体感がここにはあった。

今日の朝のニュースを見ていなかった地元の人間がこの光景を見ると大統領が辞任すると勘違いしてしまうかもしれない。

しかし、半数の報道陣がカメラを空に向けているのだから違うとすぐに気付く。

まさか、核兵器を発射したのか、されたのか!?

それでもホワイトハウスに集まる道理はない。

本当の理由はもっとシンプルで馬鹿馬鹿しいものだった。


宇宙人がやって来るのだ。


昨晩、宇宙から地球に向かって発せられた電波を世界中がキャッチした。

衛星や何らかのミスによる物なんて優しいものじゃない。その電波はあまりにも異質で強力だった。

電波は暗号のようで解読は困難だと思われたが、数時間で達した結論は「座標」であるということだ。

その座標はこのホワイトハウスであり、天体望遠鏡で視認できた未確認飛行物体の軌道とも合致した。

そして、到着予定時刻まで後10分なのだ。


ホワイトハウスの前に大統領と数人の美女、美男子が横に並んで談笑をしながら空を見ている。

一見彼らはモデルのようだが、特別に容姿の良いシークレットサービスや軍など政府の者だ。

しかし、未知なる宇宙人との敵対を防ぐために銃は装備してなく誰もが緊張していた。

一秒が十分にも感じられる長い時間も空から降りてくる円盤に目を奪われ忘れ去られる。

10メートルほどのクルクルと右回転のようにも左回転のようにも見えるUFOと呼ばれる円盤が優しく地上に舞い降りた。

報道陣から歓喜の声が沸き起こり、なぜか泣き出す人さえいる。

分割ラインも見えない正面の中央部が開口しなだらかなスロープが現れる。

そこには、映画のように煙に包まれながら光を背に宇宙人が降りてきた。


誰もが息を飲む。


宇宙人の容姿は今まで想像されたの醜いタコやシルバーのモノと違って金属のようなものだった。

真ん中に光る宝石のような物を中心に小さい金属の塊が回っていて、そこから1メートルほど地上に向けて足のようなとがった金属が伸びている。

誰が見ても芸術のように美しかった。

そして、金属音のようでありピアノから発するどの音よりもハッキリと透き通った声で少しだけ話すとUFOに乗りすぐに発った。


回りから驚きと落胆の声が聞こえる。

最初で最後だったかもしれない宇宙人とのコンタクトは失敗に終わったと考える他ない。

そして、彼らが最後に発したような声の意味が分からず恐怖でもあった。

まさか、宣戦布告の合図だったのかも低い文明を見てもうすでに掌握されたも同然なのか。

録音を頼りに世界中の科学者による最後の声の解析が始まった。

賞金は天文学的な大金であり、永久に語り継がれる名誉でもあった。

しかし、それから数ヶ月たっても誰も成果を報告できなかった。


そして丁度一年が過ぎようとした頃に自称科学者の男からホワイトハウスに手紙が届いた。

誰もが期待していない無名の科学者から送られた解析結果は誰もが納得し、絶望した。


「この星の代表的な知的生命体は醜い肉が蠢き顔には幾千もの虫を飼っており、呻くような声を発している。」

「この汚染された星も利用価値はなく放っておいても勝手に滅びる為、破壊する手間すら惜しい。」

「ただ、宇宙に漂っているあのレコードの曲は最高だった。」

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その時、教授は――― シナミカナ @Shinami

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