第31話スタイルをどう作るか
さきに「スタイルをでっち上げる」と書きました。まぁ、そう書くと、こういう意見も聞こえるかもしれません:
それができたら苦労しない
まぁ、確かにそうですね。そこで、ちょっと攻め方を変えてみましょう。
まず、カクヨムでもどこでもいいのですが、ちょい時間を潰して眺めて見てください。すると、あることに気づくと思います:
日本語になってない
というものが少なからずあります。日本語を習い始めたばかりのピダハン族のほうが、よっぽどましな文を書くんじゃないかと思えるようなものが。
そこで、とりあえずそれらよりはましな文を書けているというところから始めます。
実は、この時点で既に書き手の何らかの癖は現れているはずです。ただし、それは自覚的でなものではないし、安定したものでもないかもしれません。ここで、スタイルをでっち上げる方法の一つが見えてきます。自分が書いたものをよく読み、そこにある癖を自覚する方法です。自覚と言ってもリストにするとかは、まぁやらなくてもかまわないと思いますが。もし、技術系の人であれば、形態素解析や構文解析(どちらもオープンソースで公開されていますので)を試してみるのもいいかもしれません。
この段階でできることがもう一つあります。「漢字を開こう」で書いたことですが、どういうふうに漢字を開くかを、とりあえず決めてみることです。それとおそらく同程度の話としてできるのが、「こういう言い回しとかは使わない」というカセを決めることです。
そんなのは子供だましだし小手先の話だといわれるかもしれません。「こういう言い回しは使わない」については、「そんな言葉狩りみたいな方法で」と言われるかもしれません。OK。言っててください。あなたがそう言っている間に、他の人は「別の言い回しができないか」を試しますから。
また、「こういう言い回しは使わない」というのは、別の使いかたもできます。文の話から、もうちょっと広い範囲の話に関係してきます。たとえば、私は「〜するべき」というような言い回しは意識して基本的に使いません。ですが、それであっても使う場合があります。私が普通使わない言い回しを使ったとしたら、そこにはなにか意図があるはずです。まぁ、読み手がそれを読み取れるかどうかは知りませんが。でも「〜するべき」というたったそれだけの表現を使うことで、登場人物の考え方とかいろいろと読み取れるかもしれません。
まぁ、ここまではこんな感じで簡単なんですが。このあとはすこし面倒になります。というのも複数の文の並べかた、つなげかた、そして文章の構成の話になるからです。このあたりは「構成(リズムと終わること)」なんかも参照してもらうといいかもしれません。
世に、「起承転結」という言葉があります。文章を書くときにこれほど言われ、にもかかわらずこれほど役に立たない言葉も珍しいかと思います。なんで役に立たないか。答えは単純です。それ、文章を対象にしたものじゃないですから。
文の並べかた、つなげかた、文章の構成は、すべて論理によるものです。はい、ここでもある声が聞こえてきます:
いや、感性だ!
はい、言っててください。たとえば:
古池や
蛙飛び込む
水の音
松島や
ああ松島や
松島や
個々の句は感性としましょう。「すばらしい句を並べれば、なおさら味わい深く……」なるわけがありません。それをつなげる論理が存在しないのですから。もっともナンセンス詩やナンセンス文学を目指しているなら、話は別です。そこでは論理こそが排除される対象であり、おなじく感性も排除される対象ですから。
このあたりは面倒なので次に行きましょう。
はい、次は世界です。ファンタジー界、SF界、ホラー界の住人のみなさん、こんにちは。
どこ界のかたでもかまいませんが、あなたにとってのその世界をよく想像してみてください。よくよくよく想像してみてください。
そしたら、それをすべて捨ててください。完全に、跡形もなく捨ててください。それはだいたいにおいて、すでにどこかにあります。その世界はあなたのスタイルではありません。
では、どうやって自分の世界を見つけるか。ここで必要になるのは想像ではなく学習です。みなさんが大嫌いな勉強です。ここでまた声が聞こえて来そうです:
勉強する対象こそ、すでに存在しているだろう!
はい、それもまた言っててください。あなたがすべてを知っているなら、そうかもしれません。すべてというのは、「何かについてのすべて」ではありません。完璧なるすべてです。ここでまた声が聞こえるかもしれません:
もちろん、すべてを知っているとも。
OK。言ってて。英語のallというのは意味としてはonlyと同じです。「これがすべてだ」と言えるためには、それを手の平に乗せて「ほら、ご覧。これがすべてだ」と言えなければなりません。あなたが先のような声をあげるとしたら、その「すべて」とはそういう意味です。そして、その意味ですべてと言うかぎり、それがあなたの想像力のすべてです。そして、あなたはそのすべての中にいます。外は見えません。そのすべてに満足しているのもいいでしょう。それがすべてではないと知らない限り、それがすべてなのですから。
さて、このあたりのことについて最近ちょっと気になったことがあります。「指輪物語のようなファンタジーを書くのに、北欧神話が役に立つ」というような話です。まぁ、役には立ちます。ですが、この文は論理がおかしいですね。トールキンは北欧神話を再構築してホビットや指輪を書きました。それを、「指輪物語のようなファンタジーを書くのに、北欧神話が役に立つ」と言ってしまうと、もう卵か鶏かというあたりが混乱しているだけです。もうなにがなにやら。
そんなことはないんだろうと思いますが、もし「指輪物語のようなファンタジーを書くのに、北欧神話が役に立つ」と言ったかたがこのことを知らないのだとしたら、まさにそれこそあなたにとってのすべてとはどういうものなのかの例なのかもしれません。
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