第22話わかりやすさ(世界・設定)
「考証・設定」なんかとも関係することですが。
根がSFの人間なので、SFをひきあいにすることが多くなってしまいますが。ファンタジーやSFを書いていると、世界や設定、ガジェットが出てきたらそれの説明が必要になることがあります。「形容と説明、描写は悪手」にも書いたことですが、どういう形であっても、それらを説明するのは悪手です。
たぶん、一番納得とかうなずいてもらえそうな理由をまずあげます:
そこで話のテンポが崩れる。
これをあげておけば、まぁそれで充分なのかもしれません。説明に入ってしまうことで、流れていた話がそこで一旦とまってしまいます。
ですが、ちょっと考えてみましょう。世界にせよ設定にせよガジェットにせよ、なぜ説明が必要になってしまうのか。
「SFってなんなんだろう?」あたりを読んでもらうとわかりますが、私は、SFは冒頭で一気に世界を構築する方法が正統だろうと考えています。ですが、説明をしてしまうことは悪手だと考えています。「冒頭で世界を構築するのに、説明はしない」というのは、矛盾しているように思われるかもしれません。ですが、これは簡単な話です。
というのも、書き手が「その世界、設定、ガジェットがなんなのかを知っていれば、それですむ」ことだからです。ネーミング、どこでどれだけ書くか、どういう流れで書くか。書き手がそれがなんなのかを知っていれば、簡単に数えてもこの3つの方法、そしてこの3つの方法の組み合わせで書くことができます。
それができないということは、書き手個人の文章技法の話もあるのかもしれませんが、それ以前に、こういうことがあるのだろうとおもいます:
それが何なのかを書き手自身がわかっていない
致命的です。書いた設定メモから書き写すしかありません。
あるいは、「時を彷徨い」からひいてみましょう。説明を書かないというのとは逆に、説明しか書いていない例です。「500年まえ」にこういう部分があります:
奇妙な道具もいくつか見せてもらった。木で作った長い坂に
ボールを転がす。そうすると坂の上にいくつか付けられたベルが
一定の間隔でチリンチリンと鳴った。あるいは穴のあいた板が
付いた妙な棒も。遠い星が見えた。
これらの装置を知っているひとは(そしてほとんどの人が知っているはずですが)、「あれかぁ」とわかります。なぜそれらの装置の名前を書いていないのでしょうか。簡単なことです、「時を彷徨い」の主人公は装置の名前を知らなかった、あるいは聞いたけど憶えていなかったからです。そのために書けません。さらに表現として言うなら、名前を書く必要なんかないし、むしろ名前で書いたら野暮だからです。
さて、前半の話と、「時を彷徨い」の例は、矛盾しているように思えるかもしれません。ですが、これっぽっちも矛盾していません。というのも、「読み手にはわかる」はずだからです。わかりやすさはこの一点に集約できるでしょう。
ただし、ここで一つの問題があります。もし、読み手がこちらが想定している知識を持っていなかったら? その場合、書いたことは伝わりません。これこそが致命的と思う人もいるでしょう。そう、まさに致命的です。読み手に準備ができていないという点において。責任は書き手にあるのではなく、読み手にあるわけです。
わかりやすさとは何もかもを説明することではありません。説明しなくても、わかるように状況などを作ることです。そしてあとは読み手の問題です。
「誰にでもわかるのが理想」という人もいるでしょう。ことSFに関しては、それをやろうとするとニュートンとかからの論文を全部ひっぱって来て、さらにそれに注釈をつけてということが必要になります。そんなことは面倒くさくてやってられません。だから、やりません。わからなかったら、読み手の問題です。知っているはずのことを知らないのですから。
というところで終わってもいいのですが、すこしまとめます。
「読み手に理解できる」の基準をどこにおくか。それが一つの問題だということは考えてみる必要がある事柄でしょう。
そして、そもそも書き手が、それが何なのかを知っているのかをもう一度考えてみましょう。
その上で、技法として説明するかしないかの選択も視野に入って来ると考えましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます