5話

「いっただきまぁ〜〜〜す」


ようやくです。

ようやく、このかっぱ巻きを食べられます。

お箸でお皿の上に綺麗に置かれたかっぱ巻きを。

いえ、正確には軍艦巻きなのですが、それをお箸でつかんで_______あれ!?


「おのぉ……お寿司って、手で食べてもいいんですか?それともお箸で?」


やっぱり、こういう本格的なお店ってこういったマナーみたいなことにもうるさいのかなと思ってしまいます。

正直なところ、回転寿司ですら何回かしか入った事のない私は、こうした回っていない板前さんのお寿司なんて食べたことないし、こうした食のマナーに疎いです。


「そんなの、どちらでも好きな方で食べればいいんだよ。ちなみに私はいつも割り箸で食べてるぞ! 手を直接汚すこともないからな」


と、カッコいい子が教えてくれました。


「それじゃ………私もお箸で」


軍艦の形が崩れないようにお箸で丁寧に挟み、ゆっくりと落ち上げて顔の高さまで上げてみる。


「うわぁぁぁぁーーー!!」


思わず声が出てしまうほど、軍艦の上に乗っているきゅうりの色は艶やかで、キラキラした薄いコートをまとってるかのように見えるのです。

それと、仄かに甘い香りが鼻の中へ入ってきました。甘くて優しいその香りは、フルーツの香水みたいです。


「あ〜〜〜〜んっ!!」


口を開けます。

その軍艦巻きを一つパクり……もぐもぐ……しっかりと口の中で感触を楽しみながら味わいました。

すると、口の中に満遍なく広がるみずみずしくてさっぱりとした優しい甘みがシャリッとした果実のような歯応えと同時に溢れ出しました。


「ほ…ほほ、ほげぇ〜〜〜〜〜っ!!」


あまりの美味しさから、私は興奮した時に出る口癖を抑えきれませんでした。

お店の中で木霊する私の「ほげぇ〜〜」は、いつもより調子良く響き渡っていました。

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