3話
「うわぁぁぁ〜〜〜〜、大きな店っ!!」
お腹を空かした私が足を踏み入れたのは、何故だか目にとまった不思議な不思議なかっぱ巻きの専門店です。
「ヘイッ、らっしゃいーーーッ!!」
お店中に響き渡る大きな声の主は、どうやらここの店主、いえ、大将さんと思しき人のものでした。
格好からして板前さんである事がわかります。
「お、お嬢ちゃん初めて見る顔だね……うちの店は初めてかい?」
「はいっ! 私、ついさっきこの街にやって来たばかりなんですよ」
「ほう、それで俺の店へやって来たってわけかい。そりゃお目が高いッ!! まあ座んな」
と、手を前に出すような形で大将さんは自分の手前に位置するカウンター席を案内してくれました。
せっかくなので、私はその席に座りました。
改めてお店の中を見てみると、立派なお寿司屋さんという雰囲気からか、なんだかちょっぴりお金持ちになったかのような気分になったのです。
「うわぁぁぁ〜〜〜、私、回ってない板前さんのお寿司屋さんに入るの初めてなんですっ!!」
「チッチッチ……お嬢ちゃん、間違えちゃいけねぇな。ここは"お寿司屋さん"じゃなくて"かっぱ巻き専門店"さ。メニューをよく見てみな、かっぱ巻き以外書かれちゃいねぇだろ?」
確かに、大将さんの言う通りメニューにはかっぱ巻き以外のお寿司は載ってないです。
かっぱ巻きと一口に言っても、いろんな種類のかっぱ巻きがメニューに書かれていました。
「確かに外の看板にも【かっぱ巻き専門店】って書かれてましたけど、この街の食べ物屋さんって何かの専門店ばかりなんですか?」
私は先程から疑問に思っていたことを大将さんに尋ねました。
すると大将さんは、得意げな顔で話すのでした。
「おうよ! 何てったってこの街は『狭く深く』の商売が売りだからな。食べ物屋だけじゃねぇぜ、どの店も幅広さよりも深さを追求した本当の意味での専門店ってわけなんだよ」
「『狭く深く』ですか………『幅広く』じゃなくて?」
「あたぼうよ! いいかい嬢ちゃん、『幅広く』って聞くと聞こえは良いかもしれねぇが、言い換えれば『広く浅く』って事になるんだ。何でもかんでも中途半端に浅く手をつけるより、何か一つにこだわってやってった方が商売ってのは上手くいくもんなのさ」
「おぉぉぉーーーー!! 大将さん、なんかかっこいいっ!」
思わず手を叩いてしまいました。
大将さんが言っていることがなんとなくだけど解わかるような気がして、心にズバッと入り込んできたからです。
「すごいですね、この街の人達の商売にかける情熱は」
「へへ、それでこそ客に良い思いをさせる商売人としての役目を果たせるってもんさ。さぁ嬢ちゃん、俺の胡散臭え話を聞いてくれた礼だ、サービスするから好きなかっぱ巻きを注文してくれ」
大将さんは嬉しそうに私にそう言ってくれました。
お腹も空いているし、一秒でも早くこの大将さんが握るかっぱ巻きを食べたいのですが、数あるかっぱ巻きの中からどれにしようか迷っちゃいます。
「う〜〜ん、どれにしようかな。かっぱ巻きって言ってもたくさん種類があるみたいだし」
「なら、私のオススメの《スイートきゅうり軍艦巻き》を頼むと良いよ」
「なるほど、じゃあそれください………って、あれ!?」
私に《スイートきゅうり軍艦巻き》なるメニューを勧めてくれたのは大将さんではありません。
明らかに女の人の声で、結構大人っぽい感じのハスキーな美声でした。
その声は横から聞こえたので、首をそちらの方へと曲げると、一人の女の子の姿が見えたのでした。
「あ、あなたは?」
「私かい?私はこの店の常連だよ」
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