第34話 閉廷

「証人グレイ、君はアルフレイム男爵とレオン神殿長が盗品を手に入れたという情報を何処の誰から得たのだね?」


 グレイ兄上だけは何故俺が盗品を手に入れた事を知っていたのかを裁判長から質問される事となった。

 だが答えられないだろう。

 なぜなら炎塩を盗む様に命じたのはグレイ兄上なのだから。


「答えたまえ証人グレイ」


 グレイ兄上の顔が青くなる。

 裁判長はコレまでの何度も反転してきた証言を繰り返さない為に、直接的な説明を求める事にした。

 この言い方では知らないとは言えないからだ。

 

「そ、それは……」


 グレイ兄上がしどろもどろになる。


「答えたまえ」


 だが裁判長は沈黙を許さない。


「ビエンという冒険者からです。その男から聞きました」


 なるほど、盗難の報告を受けたのだから聞いたのは間違いではない。


「そのビエンとは何者かね? どのような関係なのかね?」


 当然そう聞かれるわな。


「アルフレイム男爵領に向かう時に雇った冒険者です。今は何処に居るのかまでは分かりません」


 ああ、ビエンに罪を被せて逃げる為の時間稼ぎをするつもりなのか。

 だがそのビエンはこちらの手の内にある。

 あまり使いたくは無いが、状況次第ではヤツを投入する必要があるだろう。

 証人として。


「では何故アルフレイム男爵領に向かったのだね?」


 裁判長攻めるなぁ。


「異議あり、それは今回の事件とは関係が無いと思われます」


 おっと、俺を訴える側の弁護士が頑張っているよ。

 

「異議あり、アルフレイム男爵を訴える要因となった人物の行動です、動機はハッキリさせるべきだと思います」


 こちらの弁護士も頑張る。


「どうなのかね証人グレイ?」


 裁判長は俺の側の弁護士の主張を採用する。


「……サンタン家です。サンタン家の人間から弟は領主に相応しくないという話を聞いたからです」


 遂に言った。

 グレイ兄上からサンタン家の名前が上がると、傍聴席の貴族達の視線が、同じく傍聴席に座る一人の男に注がれる。

 あの男が全ての黒幕のレムネイド=サンタンか。

 だがレムネイド=サンタンんは平静を保っていた。

 これでレムネイド=サンタンに裁判長が質問すれば、すべては終わりを告げるだろう。

 だが……


「サンタン家か。だがサンタン家については今回の裁判で召集していない為、別件となる。今回はアルフレイム男爵についての判決を述べる事で閉廷とする」


 むぅ、お役所仕事ではここまでか。

 まぁ今回は盗難された炎塩をめぐる裁判だからな。炎塩が実は使われておらず、既に夜の神殿に戻されていたとなればコレ以上事を荒立てる訳には行かない。

 少なくとも、確たる証拠が無いのに他の貴族を裁判に引っ張り出す事は今の段階では不可能だ。

 こうして、多少のやりきれなさを残しつつも、俺は裁判に勝利し自由の身となった。


 ◆

 

「これでアークは自由の身! 大勝利」


 シエラが嬉しそうに万歳をするが、そうとばかりも言えなかった。


「結局グレイ兄上はサンタン家に踊らされただけだ。証人のビエンが兄上に協力して炎塩を盗んだ事がばれるとローカリット家に被害が及ぶ。まぁこの時点で十分被害を受けているけどな」


 グレイ兄上は他家に踊らされた事でいらぬ恥をかいた。

 しかも自分が炎塩を盗んだのだから、サンタン家を大きく攻める事はできない。

 サンタン家の人間が事情聴取に呼ばれるだろうが、炎塩盗難の最重要容疑者であるビエンは俺の監視下にいる、と言うか夜の神の神殿で強制奉仕活動中だ。

 夜の神の神殿としてもサンタン家を訴えたいが、ビエンの証言だけでは法廷に引きずり出すのは難しい。

 魔法による嘘発見は貴族に恥をかかせる行為の為、裁判の時でも無い限り使用は許されない。

 貴族は特権階級だからだ。

 今回裁判となった理由は、訴えたのが容疑者である俺の兄、つまり貴族であったからだ。

 だから貴族でないビエンの証言だけでは裁判所は動いてくれない。

 グレイ兄上の証言にしてもサンタン家が知らぬ存ぜぬを通せば、証拠不十分になって裁判の申請は却下されるだろう。

 どうせ兄上に接触した相手も使い捨てだろうし。

 他の貴族達はサンタン家と俺の事情を知っているだろうから、内心では今回の筋書きを理解しているだろうが、沈黙を貫くだろう。

 なので肉親同士で裁判を行う事になったアルフレイム家とローカリット家の負けと言っていい。

 一応サンタン家はもっと前から大被害を被っているから、一勝一敗って所か。


「それで、これからどうする?」


 シエラが俺にもたれかかりながら抱き付いてくる。


「まずは今回助けてもらった人達に礼をしないとな。ついでに別の頼み事もしようと思う」


「悪巧み?」


「いやいや、ちょっと素敵なお酒をプレゼントしようかと思ってな」


 俺は以前ある人と飲んだ酒を思い出しながら、お礼の酒の準備をするのだった。

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