第33話 燃える法廷

「こちらにはアルフレイム男爵が炎塩を使っていないという証拠があります!」


 絶対絶命の状況で俺の弁護人が声を上げる。


「証人がアルフレイム男爵の罪を証言したこの状況でかね?」


 裁判長はまさかと言う顔で俺の弁護人を見る。


「はい。こちらに証人と証拠の品があります」


「む、むう。ではアルフレイム男爵側の証人をこちらに」


 裁判長に促され、俺の無実を証明する証人達が入ってくる。

 そして彼等の後ろには布のかけられた大量の荷物が運ばれてくる。

 人間の大人よりも大きな四角い箱が、いくつも証人席の前に置かれていく。

 箱はとても一人では持てない大きさだ。おそらくは筋力増強魔法か重量軽減魔法を使って運んでいるのだろう。 


「証人のトフポー=ハーラシオ=チープン子爵、夜の神の神殿代表トーフー=モウメン氏、月の神の神殿代表のミッカ=レンジィ女史、ソミ神の神殿代表のスー=ノノモー女史です」


 神殿関係者の登場でまたしても傍聴席にどよめきが走る。

 それも当然だろう。俺の領地で布教活動を行う月の神の神殿関係者であるミッカさんならまだ分かる。

 だがそこに炎塩を盗まれた当の月の神の神殿関係者が出てきたのだから何も知らない彼らの驚きはいかほどだろうか。

 更に何の関係も無いビルカの町の神殿関係者であるスーさんに貴族であるトフポー子爵まで現れた。

 証人席にいるグレイ兄上とスパイであったセビエンが予想外の証人の多さに驚き固まっている。

 一人でも驚きなのに、証人が複数表れたのだから驚きもするだろう。


「では証人の証言を聞かせていただこう。証人トーフー、君は夜の神の神殿関係者だそうだが、アルフレイム男爵が炎塩を使っていない証拠があるいうのは本当かね?」


 しかし裁判長は慌てる事無くトーフーさんから質問を始める。

 流石裁判長だけあってアクシデントからの回復も早い。

 いや、感覚が麻痺しただけだろうか?

 トーフーさんもまた、落ち着いた様子で裁判長の質問に頷く。


「はい、その通りです。私共夜の神の神殿はアルフレイム男爵が炎塩を使用してない事を知っています。、そしてその証拠もこちらに持ってまいりました」


 傍聴席の貴族達がこれからどうなるのかと興味心身で証人席を見つめる。


「こちらが証拠となる盗まれた炎塩です!」


 証拠品を運んできた神殿関係者達がいっせいに箱の上蓋を剥がしていくと、その中から真っ赤に輝く塩の塊が姿を現した。


「莫迦な!?」


 グレイ兄上が驚きのあまり立ち上がる。

 驚きもするだろう。盗まれたはずの夜の神殿の関係者が盗まれた炎塩を持って現れたのだから。


「これはわが神殿から盗まれた炎塩です。それをアルフレイム男爵に取り戻していただいたのです」


「莫迦な!? ではどうやって呪われた森を浄化したのだ!?」


 グレイ兄上が驚きのあまり声を張り上げる。


「静粛に!」


 しかしトーフーさんの証言が終わっていない為に、裁判長に窘められてしまった。


「証人トーフー、これが盗まれた炎塩ならば、呪われた森の浄化はどのようにして行ったのかね?」


 それは全員が疑問に思っている事だろう。

 だが答えは簡単だ。

 解決方法はずっと前から明示されていた。


「簡単なことです。浄化の魔法が使える神官をかき集めて魔法で浄化してもらったのです」


 言ってしまえば簡単だ。

 俺はトーフーさん、ミッカさん、それにスーさん達神殿関係者に頼んで浄化の魔法を使える神官を呪われた森に派遣してもらった。それでも足りそうに無かったので、トフポー子爵を始めとした知り合いに頼んで浄化の魔法を使える神官達を派遣してもらったのだ。

 浄化の魔法を使える神官を雇えなかったのはレオン神殿長のメンツの問題だったのだから、俺が雇う分には何の問題も無い。

 もちろん今回掛かった費用はあとできっちりと請求させてもらうけどな。

 そしてその神官達は作業者に扮してあの森にやって来た。

 そうだ、炎塩を振りまくだけならわざわざ作業者を雇わずともレオン神殿長の部下達にやらせれば良いのだから。

 潜り込んだグレイ兄上の部下は、神官達が使われる事の無い炎塩の袋を盛り中へと運んでいくのを見ただけで任務を完了したと判断して帰ってしまった。

 プロのスパイとしては大失敗であるが、所詮はした金で雇われた人間に呪われた森に入ってまで結果を確認しようなどという勇気は無い。


「こちらのトフポー子爵を始めミッカ女史、スー女史、更に多くの方々が呪われた森の浄化作業を行浄化魔法の使い手の手配をしてくださいました。少々人数が多い為、我々のみが代表としてこの場に来させて頂きました。協力してくださった方々の詳細はこちらの名簿に記載されています」


 そういって、炎塩の箱に入っていた紙束を取り出すトーフーさん。


「以上、これがアルフレイム男爵が盗まれた炎塩を不正に使用していない証拠です」


 勝負ありだ。

 炎塩を盗まれた夜の神の神殿が俺の無実を証明してくれた。

 これ以上の証人はいないだろう。

 結局、炎塩を実際に使う光景を確認していなかったセビエンの発言では証拠能力は無しと判断された。


「ふむ、ではレオン神殿長は盗品と知らず購入してしまっただけで使用はしていない。アルフレイム男爵は盗品を取り戻して夜の神の神殿へ返却しただけと言う事だな」


 さて、そうなると疑問が出てくる。

 グレイ兄上何処で俺が盗品を手に入れ、ソレと知って使おうとしたなんていう情報を手に入れたのか。


「裁判長、グレイ=テクセット=ローカリット氏の証言には不明瞭な点があります。そもそも何故彼は弟であるアルフレイム男爵が不正をしたという情報を手に入れたのかが明らかになっていません。証人セビエンの発言はアルフレイム男爵を不確定な情報で落とし入れようとしていたようにも見えます。浄化を行う直前まで言ったのであれば、結末まで確認するのが彼の役割りだと考えるのが自然です。彼はあえて真実の確認をしなかったのでは? そうする事で魔法による虚偽確認から逃れようとしたのではありませんか?」


 予定通り俺の弁護人がグレイ兄上達の証言の不明瞭な部分を指摘する。


「ふむ……証人グレイ、君はアルフレイム男爵が盗品を手に入れたという情報を何処の誰から得たのだね?」


 俺が無罪確定となった事で、今度はグレイ兄上に逆風が吹き始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る