第29話 逃げる者追う者
数日後、漸くレオン神殿長が冒険者の似顔絵を持ってきた。
「アルフレイム男爵、コレが犯人の似顔絵です! 急いで捕まえてください!!」
自分で捕まえる気はないのかとツッコミたいが、そんな殊勝な心があったら俺にすがりついたりしないか。
「分かっているとは思いますが、俺はあくまで小領地の領主でしかありません。できる事など限られていますよ。むしろ貴方の権力を使って神殿の人間を動かした方が早いでしょう。貴方の人望があれば容易でしょう?」
「う、うむ。そ、それはそうですが……そ、そう! 人手は大いに越した事はありませんから!!」
上手い言い訳を思いついたと思ったんだろうが、アンタに人望がないのは良く知っているよ。
アンタの事はこの数日、三馬鹿に調べさせたから良くわかっている。
はっきり言ってこの男は無能だ。この町に左遷されたのも、他の高司祭に嵌められたのが原因だ。
小領地という旨みの少ないこの領地。たまたま2神の加護を得た事で、神殿としては面子を守るために誰かを派遣しなければいけなかった。赴任したが最後、出世の芽の無い小さな領地に。
神殿の情報調査力は確かだ。彼等は今回の奉納に原因がシエラにあるとの情報を既に掴んでいた。
アルフレイムの娘、次期宮廷魔導師にあると。
それはつまるところ、シエラがいなくなれば、俺達が天寿を全うすれば、領地は凡庸な跡継ぎのものになると分かりきっている。
シエラのような天才がそうそう生まれる訳がないからだ。
つまり発展の見込みのない領地では神殿もそれ以上の発展は見込めない。
そりゃあだれだってそんな所の責任者になんてなりたくないだろう。
案の定レオスは似顔絵をおいてさっさと逃げていった。
頼れる相手がいないからこそ。
「送られるべくして送られてきた無能だなぁ」
もしかしたら俺が領主になった事をやっかむ貴族の差し金でもあったりして。
さすがにそこまでは考えすぎか。
俺は受け取った似顔絵を使用人に渡し、複製魔法で量産して来る様に命じた。
複製魔法は同じ物を沢山作る魔法だ。
複雑な品の複製は術者の技量に影響するし、貴重な品を複製したら贋作製作の罪で捕まってしまう。
だが似顔絵などの複製なら大した問題にはならない。
実際犯罪者の捜索には複製魔法で量産された似顔絵が役立っているしな。
使用人が似顔絵の複製を持って帰ってきたら、今度は月の女神の神殿と夜の神の神殿、それにシエラと三馬鹿、そして冒険者教会に渡すように伝える。
冒険者が犯罪を犯した可能性があるのなら冒険者達を纏める冒険者組合にとっても大事だからだ。
彼等に声をかければすぐに冒険者の素性が明らかになるだろう。
運がよければ居場所も分かるかもしれない。
今回は俺が直接動く必要は無い。俺は待つだけだ。
◆
で、犯人はあっさりと捕まった。
犯人は冒険者のビエン、そして彼が雇ったゴロツキだった。
冒険者組合に容疑者である冒険者の似顔絵を届けたら、早速冒険者組合の人間がやって来た。
ビエンはつい最近自分が雇ったゴロツキ達とトラブルを起こして別の町に逃亡したとの事だった。
その位なら冒険者組合のとやかく言わないのだが、問題となったのは彼が人を雇った事だった。
冒険者組合は、依頼人から受けた仕事を冒険者達に斡旋する。
つまり仲介料をもらえるわけだ。
だというのに、組合に所属する冒険者が結構な人数の組合未登録のゴロツキを雇って仕事をさせた。
組合はこれを問題視した。
コレを許したら冒険者組合の面子に関わるからだ。
あと仲介料が取れなくなる。
更に領主である俺から、ビエンが犯罪を行ったから調べろと言われたので彼等も焦った。
間違いなく管理責任問題になるからだ。
早速ビエンを探して騒いでいたゴロツキ達を捕縛し、仕事について尋問した。
さすがのゴロツキ達も自分達が犯罪を行った事は理解しているので黙秘を貫いていたのだが、責任問題を恐れた冒険者組合の重鎮達が安くない金額を図って、自白魔法の使い手に依頼した事で事態は進展した。
予想通り彼等はビエンに雇われ炎塩の強奪に協力した。
しかしビエンはゴロツキ達に給金を支払う事をしぶり、代金を不当に値下げして逃げ出した。
こうなると冒険者組合も本気になる。各地の組合支部に緊急連絡が行われ、ビエンの捜索が行われた。
結果隣国に高飛びしようとしている彼を発見、捕縛し今に至る。
◆
で、そのビエンが今俺達の前に居る訳だ。
ここに居るのは俺とシエラ、それに月の女神の神殿の神殿長のミッカさんに炎塩販売担当のトーフーさんだ。
4人の重鎮に囲まれビエンが真っ青な顔で震えている。
「さて、答えてもらおうか。何でこんな事をしでかしたのかを」
俺が質問するとビエンは大げさに思える程に動揺する。
「素直に答えた方が貴方の為ですよ。何しろ貴方は夜の神の神殿を襲い、更にゴロツキさん達に対して正当な報酬を支払わず逃亡した。しかもその件は冒険者組合に無断で行っていた。普通に捕まれば犯罪者で済みますが、あくまで抵抗するのなら国家反逆罪も適応されかねません。なにしろ炎塩の流通に関しては国の思惑も絡んでいますから」
ミッカさんが大山脈を揺らしながら、やんわりとビエンをたしなめる。
逃げ場をなくしているだけにも聞こえるが。
とはいえ彼女の言っている事は間違ってはいない。
炎塩の取り扱いは各国政府と各地の神殿が合議して出来上がった取り決めだからだ。
「…………っ」
震えていたビエンが顔を上げる。
未だに顔は真っ青だが、決心は固まったらしい。
「お、俺はし、仕事を依頼……されたんです……」
「誰が貴方にそんな事をさせたんですか?」
ミッカさんがビエンを促す。
何気に誰がビエンに犯罪を促したのか、つまりビエンがそうせざるを得なかった相手が居るのかと聞いている。
それはつまりビエンに情状酌量の余地が有るかもしれないと思わせる口ぶりだ。
ビエンもそう思ったのだろう、彼の滑舌が良くなってくる。
そして衝撃の人物の名前がビエンの口から放たれた。
「俺の依頼主は、グレイ=テクセッタ=ローカリットだ」
それは俺の兄の名前だった。
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