第28話 面の皮の厚いライオン
「実は私はとある冒険者に騙されていたのです」
レオン神殿長曰く、俺に依頼した直後に冒険者が面会を求めてきたそうだ。
そいつは太陽の神の神殿が炎塩を求めている事を偶然知り、自分達なら炎塩を入手できると告げてきたらしい。
しかしレオン神殿長は既に俺に頼んでいるから必要ないとつっぱねた。
だがその男は俺では入手できない。自分には分かるといって少量の炎塩を差し出し、もし必要になったら欲しいだけ売ろうと言って帰っていったそうだ。
そして数日後、炎塩が盗まれたという情報がレオン神殿長に伝えられた。
この辺りは元々同じ神を祭っているからこその情報の早さであり、浄化が必要とされる土地の情報や炎塩や浄化魔法の使い手がそういった土地を浄化した情報が無いかを調べる為のネットワークなのだそうだ。
慌てたレオン神殿長の元に再びその男が面会を求めてきた。
渡りに船と思ったレオン神殿長はその男に炎塩を売って欲しいと頼んだらしい。
んで、その後に俺からの呼び出しがあったって言うわけだ。
もう炎塩は手に入ったからって余裕こいて来てみればなんだかきな臭い雰囲気。
もしかしたら自分の購入した炎塩は盗難品なのではないかと思い炎塩を売りつけた冒険者を探したもののすでに影も形も無かったらしい。
「コレは間違いなく私を陥れる為の罠! 私が盗品と知らずに使った所を狙って私の地位を奪おうとしているのです!」
断言したけど証拠はあるのかねぇ?
「奪おうとしている相手に心当たりは?」
「私が神殿長だからです!!」
お、おおぅ。そりゃまたすごい自信だなぁ。
けどこんな小さな領地の神殿長の座ってそんな重要か? 寧ろ左遷されたとしか思えないんだが。
「で、その男の容姿は? その男が犯人だとすればしかるべき筋に訴えればいいじゃないですか」
本当なんでウチに来るんだよ。
「そんな事をして本当に盗難品だったら私の名に泥が付くではないですか! この件で私の神殿の醜聞が広まれば領主である貴方の名にも傷が付くのですぞ!! それでもよろしいのか!!」
コ、コイツ俺を巻き込むつもりか!?
「領主と神殿は切っても切り離せぬ間柄、我々は既に一蓮托生ですぞアルフレイム男爵」
追い詰められた人間特有のヤバイ雰囲気をかもし出すレオン神殿長。
コレは対応を誤ると本気で巻き添えを喰らい兼ねないな。
「どちらにしろその冒険者が見つからなければ話になりません。まずはその冒険者を見つけてください」
「見つけてくださらないのですか!?」
おいおい、コイツ本気でいってんのか?
「私はその冒険者の顔を見た事がありません。まずは似顔絵魔法の使い手に頼んでその冒険者の似顔絵を作るべきでしょう」
顔も知らない相手を探せるかっての。
「おお、そうですな! 早速似顔絵魔法の使い手に頼んで犯人の似顔絵を作ってきますぞ!!」
レオン神殿長は挨拶もなしに駆け出して行った。
「ヤレヤレ、忙しくなりそうだ」
◆
レオン神殿長は似顔絵魔法の使い手を探しに行ったが、この小さな町にそんな珍しい魔法の使い手が居る訳がない。一度大きい町に出なくてはならないだろう。
ちなみの似顔絵魔法というのは対象の記憶を探ってその記憶の通りの絵を書く魔法だ。
その所為で対象がうろ覚えだったり、時間が経ちすぎていると似顔絵の精度も下がる。最悪別の人物のイメージが混ざる事がある。
まぁそれでも本人にヘタクソな似顔絵を描かせたり、時間をかけてモンタージュを作るよりはよっぽど早くて正確だ。
そんな訳で似顔絵が出来るまでは時間がかかる。
だがその間に何もしないなんて事はありえなかった。
まずは月の女神の神殿に連絡をよこす。
即座に行けないのも領主の立場の面倒くささよ。
さすがに自分のお膝元で領主から会いに行く訳にもいかんからね。
暫く経つと使用人からミッカさんが来た事を告げられたので応接間に向かう。
どこかの神殿長とは大違いだ。
◆
「お待たせしましたミッカさん」
「いえいえ、全然待っていませんよ。急用との事ですが何か御座いましたか?」
大山脈を揺らしながら、やや緊張した面持ちでミッカさんが問うてくる。
「実は……」
俺は今回の事件のあらましをミッカさんに告げる。
レオン神殿長、いやレオンには黙ってて欲しいといわれたが、脅迫までされて黙ってなんていられるか。
間違いなくヤツは俺の敵と断定していた。
「はー、そんな事が。それは災難でしたねぇ」
心から同情する目で俺を見るミッカさん。
「ええ、それでですね……」
「ほほう。それは面白そうです」
声を潜めて話す俺の言葉を聴こうとミッカさんが大山脈を揺らしながら耳を近づける。
ふふふ、俺を利用しようとした罰を受けるが良い。
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