第18話眠る娘

「霊酒が完成しました」


7日目の夕方、使いに出したメイドに連れられやって来た依頼主、サイドア=サンタンに対し俺は霊酒の完成を告げる。


「おお! ようやくか!! それで霊酒は何処に?」


 待ちかねた霊酒の完成に顔を綻ばせるサイドア、いや今はまだオチャーと言うべきか。


「まぁ落ち着いて下さい。こちらも商売なのでね、まずは報酬をお願いします」


 金額が金額だけにね。


「わ、分かっている。報酬は私の実家が用意してくれるから心配するな!!」


 心配に決まっているだろうが。

 魔法具での契約はしてあるが、こういう輩はどんな手を使って代金を踏み倒そうとするか分からんからな。契約をする魔法具があるなら破棄する魔法具もあると考えるのが自然だ。


「では貴方の御実家のある街まで行きましょうか?」


「え? い、いや実家は遠くてすぐにはだな……」


「ええ、存じています。ハチャーンの町ですよね」


「な! 何故それを!?」


 自分の住んでいた町の名前を言い当てられて動揺するオチャー。


「貴方の事は存じて居ますよオチャーさん。いえ、サイドア=サンタンさん」


「き、君は……私の事を知っているのか!?」


「ええ、知っていますよ」


 俺の言葉に顔を青くするサイドア。


「い、一体何処まで……」


 何処までも何もほぼ全て知ってるよ。


「さ、行きましょうか。ああ御安心を、ちゃんと移動の手段は確保していますから」


 俺が親切にハチャーンの町まで送ろうとするのだが、何故かサイドアは頑なに抵抗する。

 まぁあの町は現在絶賛呪われ中だ。そんなアンデッド生誕の地に元凶となったこの男が帰ればどうなるか、色々な意味で大変な事になるのは火を見るよりも明らかだ。

 最悪の場合、真昼間からオバケの大行進なんて奇跡的な悪夢が起きかねないのが現状の恐ろしい所である。

 普通の悪霊なら日の登っている間は安心できるが相手は怨霊、悪い意味で奇跡を起こす可能性が非常に高い。


「さ! 先に霊酒だ! 霊酒を渡せ!!」


 サイドアの周囲に幾つもの水の塊が現れる。

 水撃系の攻撃魔法か。


 しかし地が出てきたなぁ。これ幸いと無理やり奪って逃げる気なんだろうな。

 何しろこれだけの不祥事を繰り返し、その結果危険なアンデッドを生み出したサイドアは既に実家から……いや今は関係無いな。

 どんな理由があるにせよ、こんな暴挙に出たのは契約の魔法を甘く見ている何よりの証拠だ。それとも同じ貴族同士、大怪我を負わされたり命を奪われたりする事は無いとタカをくくっているかだな。


「ですがどうやってコレを飲ませるお積もりですか?」


「な、何?」


 突然の俺から質問の意味が分からず聞き返してくるサイドア。


「貴方が私の家にいらっしゃった晩にね、貴方の恋人の霊がやって来たんですよ。よほど貴方が恋しかったと見える。

 言っては何ですがアレはもう悪霊なんてモノではなく、怨霊と呼ぶにふさわしいモノになっていましたよ。勿論、追われていた貴方なら既に御存知でしょうが」 


「う、うう……」


 俺の言葉で少女の悪霊の事を思い出したのだろう。サイドアが苦い顔をする。


「サイドアさん、霊酒はありがたいお札の様に掲げても効果はありませんよ。文字通り酒なのですから飲ませてこそ効果があるのです」


「あ、あんな恐ろしい悪霊にどうやって霊酒を飲ませれば良いんだ!? ……そ、そうだ、あんたが何とかしてくれ!! 霊酒を作れたんだからできるだろう!? 金貨百枚分の働きはしてもらうぞ」


 おいおい、俺の仕事は作るだけだっての。

 だがその身勝手は好都合とも言えるか、俺のもう一つの依頼にとってな。


「俺の仕事は酒を作るだけです。それ以上は別料金ですよ?」


「構わん!! あの悪霊を退治してくれるのならいくらでも払う!!」


 あっさりと乗って来るサイドア。そんなに怖いのか、仮にも魔法を使えるんだろうに。

 まぁ、アンデッドに物理系魔法は効果が薄い、死霊系にいたっては皆無だ、だから恐れるのも無理は無いが話なのだが。


「どんな手段を講じても構いませんか? 犠牲が出るかも知れませんよ?」  


「構わん!! 私が生き残れば良い!!」


 素晴らしいクズ発言です。OK、生き残らせてやるよ。

 お前には既に支払い能力が無い事は分かっている。

 不足分の代金はもう一つの依頼の為に役立ってもらう事で支払って貰おう。


「では新たにこちらの契約書にサインをお願い致します」


「分かった」


 あらかじめ用意しておいた契約書を取り出してサイドアにサインを求める。


「内容はよく確認してくださいね」


「分かっている!!」


 だが夕日が沈み始め夜が近くなってきた事もあって、サイドアは碌に確認もせず書類にサインをする。

 俺はちゃんと確認しろって言ったぞ。


「よし書いたぞ!! さぁ! さっそくあの悪霊を退治してくれ!!」


 契約の書類を俺に突きつけて徐霊を要求して来るサイドア。

怖い位思い通りに行動してくれるな。


「落ち着いて下さい。霊が現れない事には霊酒は飲ませられませんよ」


「そ、そうか、では私は神殿に戻るから後は任せ……」


「いえいえ、関係の無い私の元には霊は現れませんよ。以前現れたのは貴方の気配が濃く染み付いていた前金があったからです」


「で、ではどうやって飲ませるのだ?」


 生暖かい風が吹く。

 おいでなすったな。


「こうやってですよ」


 俺の言葉を合図としたかの様なタイミングで轟音が轟く。

 言うまでも無い、少女の悪霊だ。


 ◆ 


『あ”あ”あ”あ”あ”ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁっ!!!!』


 少女の霊が窓をガンガンと叩く。

 だが特注製の窓はそう簡単に壊れない。


「ひっひぃ!!」


 現れた少女の霊に驚いて腰を抜かすサイドア。

 既に日は落ち、外は夜の闇に包まれていた。

 そう、その為に夕方に呼んだのだ。

 契約書もしかり、サイドアを外におびき出して少女の霊を誘い出すのが目的だったのだ。


『あ”あ”あ”あ”あああああああああああぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!』


 少女の悪霊が力任せに殴り付けた窓がわずか数発で破壊され、部屋の奥の壁に叩きつけられる。

 買ったばっかりの対霊結界が張られた特注窓だったんだけどなぁ。

 普通の悪霊ならこの結界窓で近づく事すら困難なんだが、さすがは怨霊に成りかけているだけの事はある。さようなら結界に掛かった代金。

 かつて窓があった場所、周囲の壁ごと吹き飛ばされた窓から少女の悪霊が入って来る。


『あ”あ”あ”……ぁぁぁあぁぁああああ!!!!』


 少女の霊窓とサイドアの視線が合った途端、少女の悪霊はサイドアに襲い掛かった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!! 来るなぁぁぁぁぁ!!」


 叫びながら水撃魔法を放つサイドア、だがその攻撃は黒いもやに弾かれ霧散してしまう。


「ひぃぃぃぃ!!」


 何発も放たれる魔法、だがその全てが無駄に終わり遂に少女の悪霊の手がサイドアに触れるまでに迫った。

「ひぃっ!!」


 悲鳴を上げて悪霊の攻撃に身を竦めるサイドア、しかしその攻撃がサイドアに届く事は無かった。

 少女の悪霊の手はサイドアから30Cmほどの距離で止まっていた。


「こ、コレは一体?」


 対霊結界、部屋の絨毯の下に悪霊封じの結界を書き込んだ霊布を仕込んでおいたのだ。

 霊布はサイドアの座っていた椅子と窓の間、ちょうど少女の悪霊がサイドアに向かって来た時に掛かるように配置しておいたわけだ。


「対霊結界、こんな事もあろうかと月の女神の神殿から特別に譲って頂いた物です。結構高かったんですよコレ」


 領主である義父さんのコネで月の女神の神殿長に頼んで用意してもらったのだ。

 忙しくて徐霊は受けてもらえなかったが、その代わりに強力な結界をいくつか譲ってもらった。これはその一つ、持ち運び式の結界だ。

 霊気を補充すれば何度でも使えるのが強みで、霊酒を作る際に漏れる霊気を浴びせていたので力の補充は十分だ。

 それだけに貴重な品で、後日報酬として霊酒を何本か神殿に収める事になっているが宗教関係者にコネが出来るので良しとしよう。

 少女の悪霊は結界の中からサイドアに襲い掛かるがその度に結界に阻まれ攻撃が届かないでいた。


「そ、そうかそうか。なるほど成程、うんうん。高い報酬を支払っているんだ、コレ位は当然して貰わんとな」


 攻撃が飛んでこないと知った途端居丈高な態度で少女の悪霊に向き直るサイドア。クズですなぁ。


「ふふん、私の愛に応えないばかりか、死んで悪霊に成って襲い掛かるとは本当に愚かな娘だ。全くもって愚かしい。お前のような平民に寵愛を授けてやろうとした私の情けを踏みにじるからこのような目にあうのだ。這いつくばって許しを請え平民!!」


『あ”あ”あ”あ”あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


「ははははははははははははははははははははははは!!!」


 少女の悪霊の怨嗟の声を聞き見下すような嘲笑で応えるサイドア、もうどっちが悪なんだか。


 ピシッ


「は?」


 小さな音と共に結界に亀裂がはしる。

 マジかよ。

 次の瞬間結界が音を立てて破裂した。

 再利用できるかなぁ。


『あ”あ”あ”あ”あ”ああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁああああああああああああああああああああああぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!』


 結界から抜け出した少女の悪霊に押し倒されるサイドア。


「がはっ!!」


 サイドアは逃げ出そうと必死でもがくもその動きが見る間に鈍くなっていく。

 サイドアを掴んだ少女の手に赤黒い霧が立ち昇り少女の体に流れ、それと同時にサイドアの体が見る間にシワシワになっていく。

 上位アンデッドのみが使える能力『吸魂』だ。下位アンデッドが使う『吸精』よりも上位の能力で生気だけでなく、寿命つまり命そのものを奪う危険な能力だ。


「が、うぐぁぁぁ……」


 サイドアがこっちに視線だけを向ける。

 早く助けろといっているのだろう。

 分かっている。その為の用意もしてある。


 俺が指を鳴らすと部屋の影に隠れていたシエラと三馬鹿が少女の悪霊を囲む。

 ちょうど正四角形を組む形だ。


『あ……あああ……』


 囲まれた少女の悪霊の動きが止まる。

 シエラ達の手には周辺を金の枠に飾られた霊符が握られていた。

『四界結界』結界魔法の中でも最硬の結界である。


「アーク!! 長くは持たんぞ!!」


 シエラの言う通り、四界結界は最硬の結界であるがそれゆえに魔力の消耗が半端無い。

 神殿から借りてきた結界維持の為の魔力譲渡の霊符を使い、三馬鹿の魔力をシエラに流してようやく1分持つかという所か。


「が、は……早く悪霊を……」


 少女の悪霊の動きが止まった所で喋る事ができる様になったサイドアが助けを求める。

吸魂の効果を完全に封じている訳ではないので今も命を吸われ続けて動けないでいる。


「サイドアさん、彼女の怒りと怨念はもう怨霊級です。このままでは霊酒を飲ませても効果はありません」


「何……だと!?」


 俺の言葉に驚愕の表情を見せた後その顔が怒りにに歪む。恐らく役立たずとか思っているんだろうな。

 サイドアが俺に対し罵りの声を上げる前に先手を取って告げる。


「ですが彼女の怒りを静めれば怨念も静まり霊酒が効果を発揮できるようになるでしょう。その為にも貴方の協力が必要なのです」


 俺の言葉に対しこの状態で何をしろと言うのかと言いたげな表情を見せるサイドア。


「彼女に謝罪してください。自分が悪かったと、罪を認めて誠心誠意謝ってください。それだけが助かる唯一の方法です!」


「な……を……」

 何を馬鹿な事をと言いたいのだろう。何故貴族の自分が平民ごときに謝罪しなければいけないのかと思っているのだろうな。


「結界ももう持ちません。今張られている結界が破れたら、その瞬間貴方は生きたまま体を引き裂かれ魂まで喰らい尽くされるでしょう」


「う、うぁ!?……」


 死にたくないと思う心と平民に屈したくないという感情がせめぎ合って謝罪の言葉を言えずにいるサイドア。だがその間にもサイドアの命は吸われ続けている。

 だがそんな葛藤もたった一言の言葉でバランスを崩すことになった。


「駄目だ! もうもたん!! 結界が崩壊するぞ!!!」


 シエラの叫びにサイドアの表情が恐怖に塗りつぶされる。


「っ!? ま! 待った……、待った! 待って……くれ!! 私が……悪かった、私が全て……悪かった。全部私が悪……い、お前……を殺した……事も、お前の家族を……殺した……事も……お前の恋……人を殺し……た事も全て……私が悪かっ……た!! 許して……くれ、私が……悪かったぁぁぁぁぁぁ!!!!」 


 サイドアの絶叫に少女の悪霊の動きがわずかに止まる。

 同時に四界結界が崩壊、俺はすかさず霊酒が入った容器を少女の口に向けてぶちまける。

 もはや飲ませるというよりも顔面にかけるという方が正しい光景だが相手は怨霊、お上品にコップで飲ませるような余裕など無い。

 だが効果はあった。


『あ、ああ……ぁぁぁ……』


 先ほどまであれだけ凶気に包まれていた瞳に、わずかばかりの知性の光が灯る。

 さぁ、お膳立ては整えたぞ。

 その瞬間、部屋の中に生暖かい風が走る。


『……トーニュ……』


 その声を聞いた瞬間、少女の顔から憎しみが消えた。


『ギ……ウ……ニ?……』


 トーニュと呼ばれた少女が初めて怨嗟の声以外を口にする。

 その視線の先には、薄く光る半透明の若者が居た。

 そう、先日の夜、俺の元にやって来た男だ。

 彼は幽霊だった。

 自らの名をギウニと言い、自分はサイドアの殺されたトーニュの婚約者だと告げた。

 彼は悪霊となって暴走するトーニュを救いたかったが、彼女が身につけていた赤い宝石の放つ邪悪な力に阻まれて彼女に近づく事が出来ないでいたらしい。

 本来なら悪霊でもない只の幽霊である彼は俺達生者の前に姿を現す事なんて出来ない。死者は生者と触れ合えないのがこの世の理なのだ。

 そしてその理に矛盾を与えた物こそが俺の作った霊酒だった。

 霊酒を作る際に周囲に漏れ出た月の霊気を受け続けた事で、彼は夜のわずかな時間だけ生者に姿を見せることが出来る様になったと語った。

 彼はトーニュを救う為、俺の力を借りたいと言ってきた。


『そうだよ、僕だよトーニュ』


『ギウニ……ギウニ!!』


 トーニュはサイドアから手を離しギウニと呼んだ若者の下にフラフラと近づいていく。

 ギウニもまたトーニュの元に向かい、触れ合うほどに近づいた二人は互いの体を抱きしめあった。


『『会いたかった』』


『ギウニ、ギウニ、ギウニ、ギウニ、ギウニ』


『分かっている、分かっているよトーニュ。ずっと君の傍にいた、でも僕の声は君には届かなかったんだ。その赤い宝石の所為で』


『赤い……宝……石……あ……ああ……あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!』


 ギウニの言葉で自らの胸元で輝く宝石を見たトーニュの目に、再び怪しい光が灯り始める。


「それを取り上げろ!!」


 俺の声にガンロがいち早く動き、鎖を引きちぎりながら宝石を奪い取る。


「取りました!!」


「よくやったガンロ!!」


『しっかりするんだトーニュ!!』


『……あ、わ、私また……』


『君は悪くない、悪いのはあの宝石の所為だ』


『怖かった、怖かったの……あの時、貴方が死んで、私も切られて、怖かった、怖くて怖くて気が付いたら目の前が真っ赤になって、殺したい殺したい殺したいって頭の中でずっと誰かが叫んでいた……』


『もう大丈夫だよ。もう怖い事なんて無いさ』


 宝石を奪い取られたトーニュは再び正気を取り戻した。

 俺の前に姿を現したギウニは言った。

 トーニュを縛る赤い宝石の魔力は強く、それを身につけている限りたとえ霊酒の力で正気を取り戻しても再び狂気に身を沈めてしまうだろうと。

 だからトーニュに霊酒を飲ませて正気を取り戻した瞬間に、ギウニがトーニュに語りかける事で赤い宝石の支配からトーニュを守る。その隙にトーニュから赤い宝石を奪い取るというのがギウニからの提案だった。 

 トーニュの様子を見る限りではうまく行った様だ。


『さぁ、いっしょに逝こう。皆待っているよ』


『はい……はい!』


 トーニュの体から黒いもやが抜けていく、そしてもやが最後一片まで抜けきった所でトーニュの体は音も立てずに崩れ落ちた。

 だがトーニュの姿はギウニと抱きしめあったままだ。

 肉体から霊体が離れたのだろう。元々トーニュは既に死んでいる、今までは怨念の力で無理やり体を動かしていただけだったのだ。


『ありがとうございます、アークさん。貴方のお陰でトーニュを救う事が出来ました』

『ありがとうございます。貴方のおかげでギウニと再び出会えました。何の縁も無い私の為にここまでしてくださった貴方には何とお礼を言ったら良いのか』


 ギウニとトーニュが俺に礼を言うとその姿がだんだんと光に包まれていく。

 昇天だ。迷いの無くなった霊は昇天して天に還るという。

 彷徨っていた二人の霊はようやく何の未練も無く眠る事が出来るのだろう。 


『『ありが……とう……』』


 最後に消え入りそうな声で礼を言って光は消えた。完全に昇華したのだ。


「終わったのか?」


シエラが俺の腕に寄りかかり問いかけて来る。


「ああ、あの二人は漸く一緒になれたんだ」


「そうか……良かったな」


 幽霊が怖いと言って怯えていたシエラだったが、ギウニと出会った翌日彼の事を話したら自分から協力したいと言ってきた。

 幼い頃から俺との結婚を夢見ていたシエラにとって、二人の関係は自分と重なるモノがあったのだろう。

 今回はそのお陰で助かった訳だが。

 何せ四界結界なんてよっぽどの事でも出ない限りお目にかかる事の出来ない大魔法だからな。ホントコイツは天才だわ。

 だが逆に考えればそれだけの魔法が必要だったトーニュの怨念は相当なモノだったともいえる。

 魔法も使えない只の町娘の怨念がだ……


「あ、ああ、ああぁぁぁ……」


 消え入りそうなうめき声。そのか細い声で意識が浮上する。

 声の主はサイドアだった。サイドアはトーニュの吸魂によって命を吸い取られ、ヨボヨボの老人のようになっていた。まさしく怨霊の祟りだな。

 とりあえずそのままにしとくのもなんなので、教会に連絡して回収してもらった。治療費はサイドアの実家払いで。

 教会で呪い払いをしてもらえば命は助かるだろう。命だけはな。

 これで全ての依頼は完了した。サイドアの依頼もギウニからの依頼も。


 だがまだ終わっていない、最後に残った真実を知る為に俺はある土地へと向かう事になるのだった。

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