第7話プロポーズと結婚

最近兄上達の俺を見る目がヤバイ。


「何やら思い悩んでいるようだな名誉男爵」


俺が悩んでいるとノックもせずにシエラが入ってくる、まぁいつものことだが。


「ノックくらいしなさい」


「問題ない、この部屋は私の部屋も同然」


えっへんと胸を張るシエラ、最近唯でさえ揺れるんだから止めなさい。


「で? 何を悩んでいるんだ?」


「・・・・・・兄上達の事だよ。父上が後継者候補に俺も入れるような事をほのめかしてから兄上達の目が危ないんだ、最悪、実の兄弟に命を狙われるかもしれない」


自分で言って陰鬱な気分になってきた、いままでは平民落ちするか否かの出来損ないで後継者争いに無縁だった俺が急に名誉男爵になったのだ、兄上達の焦りたるやどれほどの物か。


「なんだ、そんな事か」


シエラがオレの悩みを切って捨てる。


「気軽に言ってのけるな」


「私にいい考えがある」


「良い考え?」


「そうだ、要はローカリット家の家督を継ぐ心配を無くせば良いんだろう?」


「まぁそうなるな」


だが家督に関する権限は父上が握っている、俺にどうこうできるものでは・・・・・・


「わが家に婿に来ればいい」


「・・・・・・オイオイ、そんな事勝手に決めて良い訳ないだろ、第一おじさんの許可がないと無理だって」


「ん?許可はとってあるぞ」


何を言っているんだと俺の言葉をシエラは否定してくる。


「え?いつの間に!?」


「10年前にとってあるぞ、父上達も言っていたろ、私達を結婚させるって」


それってまさか・・・


「5歳の誕生日の時だな」


「あれマジだったのかー!!」


確かにあの時父上達は俺が魔法を覚えたら結婚させるって言ってたがまさかこのことだったのか。


「と言う訳で私達を阻む物は何も無い、これで誰憚る事無く結婚できるな」


お、恐るべしシエラ、こいつそんな昔から外堀を埋めていたのか。


「なぁ、お前なんでそこまで俺に拘るんだ? 俺はそこまで大した男じゃないだろ」


「…はぁ」


お前は何を言っているんだと言いたげな顔をされた。


「12年前、一緒に遊んだ」


「は?」


「遊んでくれたのはアークだけだった」


12年前か、当時から既に天才ともてはやされていたシエラは周りから特別扱いをされていた。

大人からはあの子は他と出来が違うといわれ、子供達もシエラの格の違いとでも言うのか、自分達よりも優秀な存在である事を本能的に嗅ぎ取って一線を引いていた。

だがそれも最初からそうだった訳じゃない、無神経な大人達の言葉、お前より優秀、あの子は特別、そういった心無い言葉をわが子に投げつけたことで子供達もその言葉に蝕まれていったのだ。

当時親同士が友人である俺だけが一切の偏見無くシエラと一緒に遊んでいた。

それが俺を選んだ理由とのことだった。


「そんな事で俺を選んだのか?」


「そんな事だからアークを選んだんだ、大切な人は本当につらい時にそばにいてくれるって母様が教えてくれた、それにアークは自分を過小評価しすぎる。アーク、お前はお前が思う以上に活躍している。それこそ爵位以上の活躍をな」


「そんな事は無いと思うけどなぁ」


「そんな事はある」


そう言いながらずいっと俺の胸に身を寄せてくる、息が届きそうな近さだ。


「アークは貴族になった、もう結婚してもいいだろう?」


「!」


そう言って今まで見たことも無いような不安そうな顔を見せる、いやある、同じ顔を見たことがある。

アレは俺が8歳の時、流行り病に倒れた時だ、当時は病が猛威を振るった所為で医者の数が足りず診察すら儘ならなかったほどだ、オレもその例に漏れず両親もどうすることも出来なくて諦めるしかないかと絶望したそうだ。

子供がかかれば5日で死ぬとすら言われるほどに病が猛威を振るった中、病気になった俺は4日目を迎え親も覚悟をしたらしい。

当時病が移ってはいけないと俺は一人離れに隔離されており世話役の使用人共々面会謝絶となっていた。すると部屋の外が騒がしくなりまさか5日を待たずに俺が死んだのかと両親は真っ青になって部屋を飛び出したらしい。

そしたら部屋の前には血まみれのシエラが肉塊を抱えて立っていたそうだ。

母上は失神、父上も腰を抜かしたらしい。

シエラが持ってきたのは万病に聞くというメンラー鹿の肝だったそうだ、それも何十頭分も。

メンラー鹿は標高1000mを超えるチヤシー山にのみ生息する、しかもその山には危険な魔物がうようよしており上空は激しい風と魔物で飛行魔法で近づくことも困難、そんな場所からシエラはメンラー鹿を狩ってきたのだとか。

驚いた父上にシエラは淡々とこれを俺に食わせろと言って寄越したらしい。

そのお陰で俺は無事回復し残った肝で多くの人が救われたとか。


病が治った後も体力が戻るまでベッドでから出られなかったオレだったが面会謝絶は解かれた、

その時両親を追い越し真っ先にやってきたのがシエラだった。

メンラー鹿の肝を持ってきてからずっと屋敷で俺が回復するのを待っていたらしい。

部屋に入ってきたシエラは文字通り俺の胸に飛び込んできて涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら「治った?」「元気になった?」何度も聞いてきた。

あの時もこんな不安そうな顔をしていたな。


「お前はホント変わらないな」


シエラの頭を撫でながら反対の腕でそっと抱きしめる。

頭を撫でられたシエラはネコのように目を細めうっとりとする。

コイツはずっと昔からオレだけを求めていたんだな、正直その一途さには頭が下がる。


「なぁシエラ」


「なんだ?」


「結婚しよう」


「うん」


オレのプロポーズにシエラが答える。

これで・・・


「いや待て」


ん?


「どうした?」


「今何と言った?」


「え?いや結婚しようって」


「結婚てあの結婚か?」


他に何があると?


「二人で一緒に暮らして、一緒にご飯を食べてアーンして手を繋いで散歩して帰ってきたらお風呂?ご飯?そ・れ・と・も・わ・た・し?とか一緒にお風呂にはいって一緒のベッドに入って子作りして腕枕をして眠って朝起きたら相手の寝顔を見ながら幸せに浸るあの結婚か!!」


具体的だな。


「その結婚だよ」


「プロポーズなのか!!!」


「プロポーズだよ!!」


「~~~~!!」


声にならない悲鳴を上げながらシエラは拳を天に突き上げ何度もジャンプを始める、凄いなこんなシエラ初めて見た。


「もう一回だ!!」


ジャンプをやめたシエラが急に俺の所に戻ってきてリテイクを要求する。


「判ったよ、・・・シエラ、結婚してくれ」


「はいっ!!」


こうして観念した俺はシエラに正式にプロポーズをし結婚する事になるのだった。



・・・・・


「アーク!もう一回!!」


「またやるのかよ」


「もう一回!!」


結局シエラが満足するまで何度もプロポーズするハメになった。

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