第6話思い出の酒が飲みたい
前回の伝説の酒騒動で俺の名声はその筋ではかなり有名となった。
のだが・・・
大きな問題も発生している、言わずもがなシエラの事だ。
最近シエラのアプローチがすごいことになってきた。
一緒に風呂に入ろうとしたり、一緒に寝ようとしたり 、目の前で着替えようとしたりと色々と困る、目のやり場的に。
大体あいつの部屋は別に用意されているのに何故か理由をつけて俺の部屋に入り浸るのだ。
・・・いや何故も何もないか。
いや分かってはいるんだ、アイツの気持ちは。
何しろウチの父上とシエラの父親は親友同士だ、お互いの子供を結婚させようと約束したこともあったらしい。
だがそれはあくまで酒の席の戯言、父上達も本気で結婚させようとしているわけじゃない。
あいつが俺との結婚にこだわる様になったのはいつからだろう?
俺が魔法を使えるようになった頃からそのアプローチは激しくなった。
その前は?
記憶にあるのは・・・9歳の節目の祝いのときか、そのときは
「魔法を覚えたら結婚する」
その前は・・・確か5つの時か
「アーク!好きな人同士は結婚するみたいだぞ!私達も結婚するぞ!!」
「シエラ、結婚は大人になってからするもんだよ」
「解かった!!じゃあ大人になったら結婚するぞ!!」
でその日の夜に酒を飲みながら父上達が俺達を結婚させるって言ってたんだよな。
・・・・・・あれ?相当昔からじゃね?
おぉう、なんということだろう、シエラが俺との結婚に拘っていたのは子供の頃からだった。
だとすれば俺はどうすればいいのか、シエラは将来の宮廷魔術師候補で俺はちょっとなの知れただけの酒を作る事しか能の無い男だ。
貴族家としての格は近くても個人としての格は俺の方が遥かに下だ、とてもシエラを妻に迎えることは出来そうもない。
格の合わない貴族同士が結婚しようとすれば周りが許さない、貴族とはそういうものなのだ。
特にシエラは幼い頃から天才と呼ばれ数々の魔法を習得してきた本物だ。
シエラと結婚をするのなら回りが黙らざるを得ないような大きな功績を残すしかない。
そう、たとえば国王陛下に認められるような功績だ。
今は国王陛下が公務で巡礼を行われている、この巡礼の最中に陛下の覚えが良くなるような活躍をすればあるいは。
・・・・・・そんな都合のいい話無いよなぁ。
「アーク、客を拾って来た」
「・・・・・・客は拾うもんじゃなくて連れて来るもんだ」
人の悩みなど知らんと言わんばかりにシエラは俺の部屋に入ってくる。
「せめてノックぐらいしろよ」
「したけど?」
「え、本当?ゴメン気付かなかった」
「何か考え事か?」
「んーちょっとね」
「結婚式で出す酒の事か?」
「誰の?」
「私の」
「誰と?」
「アークと」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言で見つめ合う、ただし甘酸っぱくは無い。
「なぁアーク」
「なんだシエラ?」
「もうそろそろ良いんじゃないか?」
「何が?」
「私と結婚しても」
「俺じゃお前に釣り合わない、周りが許してくれないよ」
「じゃあ私は一生独身か?」
「・・・・・・そうならない為に考えてる」
「一つ約束しろ」
「なんだ?」
「聞く前に絶対守ると誓え」
「・・・・・・」
シエラは真面目だ、本心で答えないと許してくれないだろうな。
「解かった、誓う」
「お前が16歳までに私につりあう男になれなかったら駆け落ちするぞ」
「なっ!!!」
駆け落ちって、なんて事を言い出すんだコイツは。
だがそれも思いつきで言っているわけではないのだろう、この世界において成人とは15歳だ、貴族の女は大抵成人したら許婚と結婚する。
許婚がいなければ見合いを行って相手を探す、時間がかかればかかるほど行き遅れの年増と見られてしまう、最悪でも20歳が限界だ。
それ以降は極端に縁談の数が減ってしまう。
だから16歳は結婚時期としては寧ろ適正、しかも宮廷魔術師候補のシエラにとっては良家からの縁談など毎日のように来る新聞のようなものだ。
それ以上はおじさんも断りきれなくなる、時間切れだ。
シエラなりに考えた末の発言なんだろうな。
「いいのか?」
「何がだ?」
「駆け落ちなんてしたら宮廷魔術師の座は失うし、家に帰ることも出来なくなるぞ」
俺の質問にシエラはそんなことかと肩をすくめる。
「金の心配は無い、冒険者時代に稼いだ、住む場所の当てはある。父上達はわかってくれる、問題ない」
そうだった、コイツにとっては興味の無い事はどれだけ凄いことでも何の価値も無いのだ、
コイツはとことんまで自分の価値観だけに従う女だった。
「解かった、16歳までにお前につり合う男になれなければお前の望みに付き合うよ」
「それでこそアークだ」
どれでこそだ?
「ところで何か忘れてないか?」
「客を拾ってきた件か?」
「それだ!!」
結婚のことですっかり忘れていた、ヤバイ、シエラが来てどれだけ経った?
「大体5分くらいか」
「正確だな」
「ふふ、もっと褒めろ」
褒めてないよ。
俺は慌てて応接室に向かおうとするがシエラが制止する。
「いやその必要なはい」
「何でだ?客人を待たせているんだろ」
「大丈夫だ」
シエラはファインプレーとでも言いたげに胸を張って俺を見ながら言った。
「ドアの向こうに居る」
「連れて来たのならそう言えよ!!!」
ドアを開けた向こうには凄く気まずそうな顔をした壮年の男性が居た。
「ええ・・・・と、お待たせして申し訳ありません・・・」
「い、いや、気にしなくて良い。私の方から押しかけたのだからな」
「では応接室でお話を」
「いや、この部屋でいい」
何故かシエラが仕切る。
「いや流石にそれは客人に対して・・・」
「すまないが余人に聞かせたくないのでな、彼女の申し出に従ってくれるとありがたい」
また訳ありの客か。
「承知いたしました、それではどうぞ中にお入りください」
「結界を張りました」
「助かる」
俺はシエラの行動に驚いていた。
基本マイペースを貫くシエラが他人に敬語を使っているのだ、しかも他人の為に魔法を使っている。
つまりこの男性はシエラにとって尊敬する親しい人物かそれだけの地位に居る人物と言うことだろう。
シエラが敬語で話すのは俺の父上と母上、それにシエラの祖父である現役宮廷魔術師筆頭を除けばごく一部だ。
「はじめまして、アーク=テッカマー=ローカリットです」
「うむ、余、いや私はリーリオ=セッチー。君の事はシエラから聞いておる、なかなかの逸材だそうだな」
「そんなことはありませんよ、買い被りです」
「君の名声を聞くにとてもそうは思えんがな?」
名声?伝説の酒の件かな?
「どうぞモールティーです」
シエラが敬意を示す人物なので奮発して高めの茶を出す。
「ほう、聞いたことはあるが呑むのは初めてだ、随分と味が薄いのだな」
「モールティーは味が弱めなのでミルクなどを混ぜて呑むのを楽しむものです、とくにこの時期のモールティーは香りが良いので女性に好まれます」
そういってミルクや蜂蜜を差し出す。
「お好みで調合してみてください」
「ほう、これは面白い、む、ちと甘すぎたか」
どうやら蜂蜜を入れてしまったらしい、俺は別のお茶が入ったティーポットを差し出す。
「リンプティーです、これはティーバタフライの燐粉を固めたお茶で、匂いが薄く苦味が強いのでモールティーの味を調整するのに最適です」
「うむ、丁度良い」
リーリオさんは自分でお茶を調合するのがお気に召したようだ。
一般人にはなじみの深いモールティーを呑んだことが無い辺りやはりこの人は上位の貴族なんだろうな、一瞬自分の事を余と言っていたから王族の可能性もあるな。
国王陛下の巡礼の件もあるし陛下本人と言う可能性も、ってそれはないか。
ここに国王陛下が居たら巡礼どころではなく大騒ぎになってしまうだろうしね。
「酒に造詣が深いと聞いていたがそれ以外にも色々と詳しいようだな」
一通りお茶の調合を楽しみ終えたところでリーリオさんは俺を評価してきた。
「酒だけでは交渉できませんからね」
「魔法書の・・・か?」
「ええ」
俺が魔法書を蒐集していた事は有名だ、それについて知っていたことに関しては今更驚くに値しない。
「君の集めた魔法書のお陰で多くの貴族子弟達が救われたと言う話はよく聞く、なんでも膨大な量の魔法書を所持しているのだとか?」
「膨大と言うほどではないですよ、ただ、普通の人よりも多めに所持しているだけです」
「ふむ、それは是非見せて貰いたいものだな。ああ、いやそれよりも依頼の件が先立ったな」
ようやく本題に入るようだ。
「実は君の知識と魔法を見込んである酒を探し出して欲しいのだ」
「ある酒ですか?」
「うむ、随分前に飲んだのだがその酒の名を私は知らなくてな」
「ではどのような理由があってその酒を飲まれたのですか?」
「うむ、余、いや私がお・・・爵位を継承する事が決まった日に弟が祝いに持ってきてくれたのだ。
その酒は普段私が飲んでいた酒とは違い雑多な味のキツイ酒でな、しかしそれが新鮮で美味かったのだ。
だが弟は今年の夏に流行病で天に召されてな、葬儀が終わった後ふと弟との事を思い出していたら再びあの酒が呑みたくなったのだ」
「リーリオさんがそのお酒を飲まれたのは何時ごろの話ですか?」
「だいたい30年ほど前だな」
30年前の雑多な味のキツイ酒か。
「飲んだ場所や弟さんの言葉から思い出せることはありませんか?」
「呑んだのは王都の屋敷で、弟は祝いに珍しい酒を持って来たとしか言わなかったな」
「ではラベルは?」
特徴的なラベルならそれだけで探す指針になる。
「確か緑の紙に赤字で何か書いてあったような」
ビンゴ!その酒なら記憶にある・・・けどアレは甘い酒だからキツくは無いよな、それに雑多?
「そのラベルに覚えはありますが味は違うかもしれません、宜しければ見てみますか?」
「おお、あるのか?」
「ええ、魔法の修行用に集めた酒がありますのでそれをご用意しましょう」
じゃあ地下のワインセラーに酒を取りに行くか。
「スマンが私も連れて行ってもらってもかまわんかね?」
「それは構いませんが?」
「おお、それはありがたい、噂の酒魔法の使い手の酒蔵を是非見てみたかったのだ」
「蒐集家の方にはかないませんよ」
「では私も付いていくか、密室」
「何も起こらんぞ」
リーリオさんとシエラを連れて地下のワインセラーに入る。
家のワインセラーは俺が魔法を覚えたことで拡張の許可を父上に頂いたので知り合いの土木魔法の使い手達に頼んで拡張して貰ったのだ。
まず入り口の通路がありそこから各種酒の蔵に分かれるようになっている、アリの巣のような構造と言うべきか。
もちろん地下の拡張に伴い地盤を強化し太い柱も入れてある、普通の建物の工事ならこんなことをしたら屋敷が倒壊してしまうが魔法建築なのでその心配も無い。
ついでなので秘密の隠し通路や隠し部屋さらに脱出路も作ってもらった、うんやりすぎた。
「随分と広いのだな、屋敷の規模を考えると一般的なワインセラーよりも大きいのではないか?」
「他の酒を入れる為に部屋を分けてあるんです、ご希望の酒はこちらですね」
リーリオさんの言っていたラベルの酒を持って来る。
「ドンウー地方で作られるドランクスライムと葡萄を発酵させて作ったリゼー酒の王国暦42年物です」
「スライムが原料なのか?」
「はい、ドランクスライムはドンウー地方にしか居ない珍しいスライムで熟して発酵した果物しか食べません、と言うより力の弱いドランクスライムは熟して地面に落ちた果物しか食べるものが無かったからです。
幸いドンウー地方のバーソの森は人の手の入っていない野生の果物が多くドランクスライムが食べる果物には事欠かなかったそうです。
そうした果物を大量に摂取したドランクスライムの体内では熟した果物が発酵し体の大半が水分のスライムは全身が酒となったのです。
ドランクスライムが体内に酒を保有している事が発見されたのは王国暦10年、当時未曾有の大飢饉が発生し民は食べるものにも困りました、
そしてバーソの森にある野生の果物を求めて人々が大挙しましたが、そのときには既に未熟な実すら取り付くされた後ですした。
そんなときとうとう餓死寸前の若者が空腹で倒れてしまいました、そんな時目の前にドランクスライムが通りがかったのです。
ドランクスライムの体内には熟した果実が見え若者は死ぬ前に一口と思いドランクスライムから果実を引き抜き口に入れたそうです。
その時食べた果物から酒の味がしたことで人々はドランクスライムで飢えをしのぐと共にスライムの体内に酒がある事を発見したのです。
いらいドンウー地方ではドランクスライムを原料にした酒を造るようになり、ドンウーの森の果物の味をよくすることで酒の味を改良して行ったのです。
そして32年後のドランクスライムは近年稀に見る当たり年といわれましてその味に感動した時の領主が記念にこのラベルを作ってボトルに貼らせたそうです」
「なるほど記念の酒だった訳か」
「ただご記憶の味とは違うかもしれません」
「構わん、まずはその味を確かめさせて貰おう。代金は幾らだね?」
「これはラベルの状態が良いので金貨5枚が相場ですね」
「酒ではなくラベルが重要なのか?」
「蒐集家とはそういうものです」
「ははは、なるほど、確かに私の知り合いにもそういう者が居たな。分かった、代金は後で家臣に持ってこさせよう」
「グラス持ってきたぞ」
シエラが3人分のグラスを持って来る・・・お前も飲むつもりかよ。
グラスに少なめに酒を入れて二人に渡す、もちろんリーリオさんが先だ。
「では」
「うむ」
「頂きます」
三人で同時に酒を飲む、・・・・・・やはり美味いな、甘めの酒なのでシエラ好みの味だ。
他の年の物も飲んだがやはり当たり年の酒は頭一つ跳びぬけている感じがする。
リーリオさんは・・・?
「・・・・・・」
どうやらお目当ての味じゃあ無かったようだ。
「ご希望の物ではありませんでしたか?」
「すまんな」
「いえ、そう言う事もあります。所で先ほどの話ですが雑多な味でキツイ酒と仰いましたね、キツイと言うのは辛いと言う意味ですか?」
「正直昔のことなのでよく覚えていないのだが、辛いような甘いような複数の味がした気がするのだ」
「それは果物の酒でしたか?」
「そうだな、果物の味がしたな」
果物の酒で複数の味がする辛い酒?辛い酒なら発酵を進めて果物の糖分が少なくなるようにアルコール度数を調整すれば辛くなるのだが。
だが雑多と言うところが解せない、それに珍しい?
あえて言うなら混成酒か?蒸留酒に果実や薬草の抽出物を混ぜたものだ。
とりあえず手持ちの混成酒を出して反応を見てみるか。
「辛くて雑多な味がする果実酒でしたらこちらのモーシィホ酒などはいかがでしょうか?」
「これは珍しい酒なのか?」
「いえ、特に珍しいものではありませんね、リンゴをベースにしたカルヴァドスと言う酒に寒冷地のモサツという甘い芋を煮詰めた汁を混ぜ込んたものであります。
探そうとすればそう手間もかからずに入手できますが位の高い貴族の方には珍しいと言えるかもしれません」
「なるほど、飲みなれないからこそ珍しいと言うことか」
さりげなくシエラが新しい杯を用意してくる。
こういう気の聞いた事をするあたりやはりリーリオさんに気を使っているようだ。
「ふむ。先ほどの酒と比べれば大分記憶の味に近いがこんどは甘みがなくなったな、
それとこの味で思い出したのだが記憶の酒はかすかに苦さを感じたな」
え?ここに来て更に苦味?
おいおいどんどん味が変わって、いや増えてきているぞ。
「ええと、他に何か思い当たることはありませんか?何でも構いません」
「ほかにと言っても味に関してはもう・・・ああ、そういえば酒を飲んだ次の日は随分と頭が痛かったな。
普段余り強い酒は飲まないのだがその日は弟からの祝いと言うこともあって杯を受け取ったのだったがあのときは本当に参った、
家臣に二日酔いを治す魔法の使い手が居なければ仕事に手が付けられない所であった。
あれ以来強い酒は飲まないようにしていたな」
「それはどれくらい呑んだのですか?」
「二人でボトルを1本空けたのだが私の方が多少多めに飲んだな」
それほど呑んではいないのか、そこまで悪酔いするような酒には心当たりが無いな。
手持ちの酒にはそんな質の悪い酒は無いしリーリオさんの弟さんはいったい何を持ってきたんだ?
「すまんな、無理を言って。やはり何十年も前の記憶の酒を求めるのは酷であったか」
「いえ、そのようなことは。時間さえいただければ伝手を頼って調べますので」
「いや、余り時間も無いのでな、ここに来るにも相当無理をしてしまったのでな、そろそろ戻らねば」
そういうことか、シエラが気を使うわけである、この人は相当地位の高い人、それも恐らく王族に近しいかそのものなのだろう。
だがそんな人が自由に動くわけにもいかない、迂闊な行動は立場的に不味いことになるんだろう。
ゆえに関わりの無い自分が気軽に近づく事など許されず今しかチャンスが無いということか。
「この辛い酒、最初の酒で割ると丁度よくなるんじゃないか?」
こいつ酒を飲むことに没頭しすぎだろう。
「そんなことしたら悪酔いする・・・・・・悪酔い?」
真面目な空気を無視するシエラの発言にふと思い当たる。
「どうした?」
いやまさかな・・・・・
「どうしたのだね?」
「少しだけ待ってくれませんか?」
俺はリゼー酒とモーシィホ酒とビールを混ぜてリーリオさんに差し出す。
「一口でいいので飲んでみてくれませんか?」
「これは?」
「果てしなく好意的な解釈で言えばカクテルの一種です」
「これが私の求めた酒なのかね?」
「可能性の問題ですが」
「では頂こう」
リーリオさんは酒と言うのもおこがましいそれを口に含み舌で酒の味を吟味する。
だが次の瞬間こくりと酒を飲み干す。
リーリオさん目を丸くして俺を見る。
「こ、これは!!」
「お気に召しましたか?」
「この酒はまさしく弟の酒の味!!
アーク君!この酒の名は何と言うのだね?」
正直気が進まないなぁ、これを教えたら亡くなった弟さんとの関係に亀裂が入るのではないだろうか。
「これってアレだろう?」
「シエラは知っているのかね?」
シエラは自分が言っても良いのかと視線を向けて来る。
これは俺の責任でもあるからなぁ、俺が言うのがスジだよな。
「厳密には酒の名前では無くチャンポンと言われる呑み方ですね」
「チャンポン?」
「悪い言い方をすれば飲み残しの複数の酒を混ぜて作った粗雑な混合酒もどきです。
複数の酒が混ざっているので甘みや辛さ、苦さが混ざっていた事に説明が付きます。
二日酔いをしたのは普段呑まない味だった事と爵位を継承する事が決まった日であったことからの精神的な高揚などが原因で酒量を誤ったのでしょう」
「な、なんだと・・・・・・!?で、では弟は何故そのようなものを私に?」
「・・・・・・恐らくは嫌がらせではないかと」
「っ!?嫌がらせ?弟が私に!?」
リーリオさんは相当ショックを受けたようだ、グラスをもったまま呆然としている。
流石にこれは申し訳が無い気がして来た。
どうしよう・・・・・・
シエラに助けを求めようかとも思ったが向こうは完全に呑みに集中している、自分で何とかしろと言うことか。
「ふ、ふはははははははははははははははっ!!!」
イキナリ、リーリオさんが笑い出す、や、やばい!頭のネジが飛んだか?
「そうか、そうだったのか、弟はそんなにも私が妬ましかったのか、ははははははっ」
「あ、あの、リーリオさん?」
ひとしきり笑い終えたリーリオさんは俺に向き直り
「ああ、すまない。長年の疑問に答えがでてようやくすっきりしたよ」
「疑問ですか?」
「どうやら私は弟に嫌われていたようだ、王位を継ぐことが決まったその日から弟は私に対しよそよそしくなったからな。
酒も私に対するあてつけだったのだろう、だが私が美味い美味いといって飲み干してしまったので反応に困ったことだろうな、はははははははっ」
かくも爵位の継承は兄弟の仲に亀裂を生じさせるのであるなぁ、兄上達も父様の後をどちらが継ぐのかで揉めるんだろうなぁ、いやもう既に揉めているのかもしれない。
「礼を言うぞアーク君、君のお陰で長年の疑問も晴れた、謝礼は後日支払おう」
「承知しました」
「シエラ」
「はい」
「アーク君に宮廷作法を教えて欲しいがどれくらいかかる?」
「最低限必要な部分だけ切り取っても2週間は欲しいですね」
「判った、ではその頃に使者を送ろう」
「ではその時までにアークを仕上げておきます」
何の話だろう?作法と言うことはリーリオさんの主催するパーティに誘って貰えると言うことかな。
たしかにそれなら宮廷作法は必要になるだろう。
「所でアーク君」
「はい、なんでしょう?」
「君は他にも色々と酒を持っていると聞いているのだがあの酒はあるのかね?」
「あの酒と言いますと?」
「うむ、君が発見したと言われる幻の酒だよ」
ああ、アレか、アレなら確か1本残ってたな。
「ございますよ、ご希望でしたら私の所有している物をお譲りいたしますが?」
「良いのかね!?いや悪いね、あの酒は取れる日と量が決まっているとかで何ヶ月も予約待ちで困っていたのだよ」
「貴族の方でしたら権力を使ってでも割り込みそうですがそういう人達はいなかったんですか?」
「多くの貴族も順番待ちをしているのでな、それに割り込むのは王であっても容易なことではない、それに酒を愛する者ならマナーは守らねばな」
どうやらリーリオさんは良識ある貴族の様だ。
・・・・・・と言うかそれどころではない相手だった。
後日リーリオさんの使者が来てシエラの指示で一番良い服を着て王都に行ったのだが、
何故か王城に連れて行かれてそのまま謁見の間に通されることになった。
シエラの指示で謁見のマナーを叩き込まれた俺は地に膝を突き頭を伏して許可があるまでじっと待機していた。
「国王陛下のおなーりー」
兵士の言葉に謁見の間にいる家臣たちの空気が変わる。
衣擦れの音が謁見の間に響き暫くして音が止む。
「アーク=テッカマー=ローカリット、面を上げよ」
聞き覚えのある声に促され顔を上げるとそこには見知った顔が少しだけ面白そうな目で俺を見ていた。
玉座に座り王様としか思えない格好をした壮年の男性が目の前にいる、つい2週間前に会った顔だ。
「余が国王リオリィ=セッチー=レカーである、
アーク=テッカマー=ローカリットよ、此度はシエラより受けた余の頼みを解決してくれたこと、褒めて使わす。
お主には褒美として金貨100枚と国家図書館にある魔法書から好きな物を5冊授けよう」
リーリオさん、いや陛下が俺に褒賞を与えてくれるが俺は喋らない、許可なくして話してはならないからだ。
「またアーク=テッカマー=ローカリットはわが国に多くの魔法を広め貴族子弟達が魔法を覚えることに尽力した功績がある、
これは非常に価値のある働きであり余はそれに報いる為にそなたに名誉男爵の称号を授ける」
陛下は俺の方に儀礼用の剣を当てると宣言の言葉を唱える。
「王リオリィ=セッチー=レカーの名の下にアーク=テッカマー=ローカリットに名誉男爵の称号を授ける。
この日この時この瞬間より汝は我が臣となるものなり」
「アーク=テッカマー=ローカリットは命尽きるまで王に剣を捧げお仕えいたします」
シエラからもしも陛下から爵位を賜わった時には必ず言うようにと何度も何度も練習させられた宣誓の言葉をつむぐ。
「祝え!今宵新たな臣が生まれたことを!!」
陛下の言葉に謁見の間の貴族たちが拍手をする。
こうして俺アーク=テッカマー=ローカリットは貴族として爵位を授かってしまったのであった。
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