第3話 酒蔵見学に行こう

無事魔法を覚え成人の儀もあっけないほど滞りなく済んだ。


次に国に酒の製造許可を申請する、貴族なので許可は簡単に出た。

魔法に関する許可はわりと甘い、これも魔法が使える貴族の力を強調する為だろう。


今までは魔法の本を収集していた俺だがこれからは酒をメインに集めていくことになる。

というのも魔法で作り出した酒は術者のイメージが重要なようで、

何も知らずに作った最初の酒と他の美味い酒の味を知ってから作った酒では味が違うことに気付いたからだ。

最初に作った酒の味は子供の頃に父上にせがんで少しだけ飲ませてもらったワインの味に良く似ていた。


そういう訳で今は街の酒場で酒の飲み比べをしている。

なるべく高い酒を注文して味わっていく、

最初は数をこなして色々な味を知ろうとガムシャラに飲んだ所為で悪酔いして結局味なんて全然判らなかった。


なのでその後は反省し一日に飲む酒量に気をつけるようにしている。

あとツマミにも拘る事にした、特に酔いを早く治すツマミは良い、枝豆は最高だ。


今飲んでいるのはシュバリエウイスキーと言う癖の有る強い酒だ、

ウイスキーはアルコール度数が高く体を温める為に寒冷地で好んで飲まれることの多い酒なのだが、

この酒にはそれにちょっとした逸話がある。


この酒は別名騎士の酒と言われており一人前の正騎士となった新人騎士が祝いで飲む酒なのだが

その際の作法は一気飲みである、万一倒れたときは神官が魔法で治療してくれるので安心だ。


そもそもの始まりは冬山で訓練中の従騎士達が吹雪に呑まれ遭難した事から始まる。

雪山で遭難した彼等は酒好きの騎士が隠し持っていたウイスキーを回し呑みすることで凍死を免れたらしい。

それ以降、縁起を担いで正騎士となった者はシュバリエウイスキーと名を改名されたウイスキーを飲むことで

対処できない災害から身を守ってもらうという風習が出来上がったそうな。


なお、過去の書籍を調べた所そのような事例は存在し無かったのでおそらく誰かの捏造だろう、主にウイスキー蔵辺りの。


「うーん、腹の底にカッと来るね」


「癖はあるがそれが良いって奴が結構いる酒でね、余り数が出回らないから貴重なのさ」


俺の呟きに答えたのは酒場のマスターであるヴェッカさんだ、父上の友人で冒険者として名を馳せたが冒険中の怪我で引退し、この街で酒場を開く事にしたらしい。

現役時代には父上の依頼を幾つかこなしていて信頼も厚かったそうで時折父に呼ばれて遊びに来る、俺も小さい頃は彼の冒険譚を聞かせてもらって冒険者に憧れたものだ。


「製法に難があるんですか?」


作るのが大変で味の割りに高い酒と言うのはわりとある、他の酒の造り方を知らなかったり、その材料を作るのに向かない土地では珍しいことではない。


「そう言う訳じゃなくてな、名前の由来は知っているか?」


「ええ、遭難した騎士が飲んで九死に一生を得たって奴ですよね」


「ああ、それ以来騎士団は新人の騎士が入る時には必ずこの酒を注文するんだ、それも結構な量を。

お陰で一般に出回るのは豊作だった年の余りなんだよ」


なるほど、特定層から定期的な需要が見込めると。




「ところで、酒を造る為の知識が欲しいのなら味を知るだけでなく作り方を学んでみるのはどうだ?」


ヴェッカさんから意外な提案がでた。


「ウチの酒を呑んでくれるのはありがたいがそれだけじゃ良い酒は作れんだろ、作り手の苦労も理解せんとな」


「作り手の・・・・・・苦労ですか」


「知り合いの酒蔵を紹介してやろう、見せてもらえるかはお前次第だ」


「あ・・・ありがとうございます」


コレはチャンスだ、確かに酒蔵の中を見せてもらえるならかなりの勉強になる。


「よし、行くか!」


「今からですか!?」


「おう、行くなら早いほうがいいだろ?」


「まぁ、そうですが。あ、水ください」


「ほれ、看板下ろしてくるから酔い覚ましとけ、仕入れのついでに案内してやる」




ヴェッカさんの思いつきのままに連れられて俺は酒蔵にやって来た。


「ここがこの街唯一の酒蔵ギルガメスだ」


「ここ酒蔵だったんですね」


「興味ない奴には意味のない所だからな」


たしかに、いつも注意を向けずに通り過ぎていた。

街の隅々まで知っていると思っていたけど以外に知らない所があるみたいだ。


「ギルはいるか?」


ヴェッカさんが酒蔵に入るなり店員に話しかける、

顔なじみなんだろう、店員はすぐに店の奥に入ってギルと呼ばれた人を呼びに行く。

暫く待つと店の奥から白い髭のドワーフがやって来る。


「どうしたぁヴェッカ?仕入れにはちっと早いだろ?」


「面白いのを連れてきた、ついでに白ワインの樽を二つ頼む、そろそろ祭りも近いんでな」


「セコい事言わんでドンと買ってけ、で面白いのってのはそこの坊主か」


「ああ、ローカリット家の三男のアーク=テッカマー=ローカリット様だ。アーク、酒蔵ギルガメスの主ギルガメスだ」


「初めまして、アーク=テッカマー=ローカリットと申します、お会いできて光栄ですギルガメスさん」


「ああ、お前さんがローカリット家の三男か」


「知っているんですか?」


「魔法書狂いの三男と言えばこの国、いや周辺国で知らぬものはおらんだろう」


そこまで噂になってたのか俺は、まぁ魔法書の貯蔵量では王城にある国家蔵書以外なら誰にも負けない自身はあるが。

ちなみに俺の魔法書は盗難防止の為に結界を張ってもらっている、結界を張ったのはもちろんシエラだ。

俺とシエラ以外は許可がなければ結界に弾かれる、無理に入れば二重三重に張られた、より危険な結界に襲われ命を失う。

過剰ではないかと思うだろうが本来魔法書は危険で貴重な物、特に庶民に見せるわけにはいかない、魔法は貴族が独占するものなのだから。


「いやー我ながら有名になったものですね」


「で、そのローカリット家の三男様が俺の酒蔵に来たのは俺から酒の味を盗む為か?」


「いえ、そんなつもりでは」


「聞いているぜぇ、ローカリット家の三男は魔法で酒を作れるんだろう?、そんな奴にウチの酒のノウハウを知られたらアッという間に閑古鳥だ、まったく貴族様の使う魔法って奴は便利だよな」


「そ、それは誤解ですよ、魔法はそこまで万能じゃありません、僕が貴方の酒をそっくりそのまま真似する事は出来ませんし出来ても客を奪うのは無理ですよ」


「ほーう、そいつは何でだい?」


うわー空気悪い、酒蔵の店員達もチラチラとこっちを見ている、彼等からしたら明日にも仕事を奪われてしまうかもしれないのだから気分が悪くなるのも仕方ないが。


「まず1つ僕の魔法ではあなた方の作る酒の様に微調整が出来ません、つまり魔法が僕のイメージを読み取って自動で作るのでイメージできない味わいが抜けてしまうんです」


一瞬で完成してしまうので途中で味をいじれないのがこの魔法の欠点だ。


「つまりウチより美味い酒は作れねえって事か」


「今は、ですが。それと貴方の酒は貴方の蔵の味です、その味をわざわざ再現するのは困難なので味をそっくりそのまま盗むような真似はしません、そんな手間をかけるなら貴方の味とは違うもっと美味い酒を作ります」


「ほう、俺より美味い酒を作るだとぅ?」


ヤバい、口が滑った。

酒蔵の雰囲気が更にピリピリして来た。


「ウワッハハハハハハハハッ!!、生意気な小僧だ、俺の酒を超えるだと!!!面白い!!」


ひとしきり渡ったあとピタリと笑いが止まる。


「そこまで言うのなら俺より美味い酒を作ってもらおうか?」


「いえ、将来的な話ですよ。今は無理です」


ギルガメスさんは髭を撫でながらこちらをじっと見ている。

なんとなく目をそらしたら負けのような気がするのでこちらも見返す。


「俺が認める酒を造れたらウチの酒の造り方を教えてやる」


「え?」


「美味い酒を作ってきたら教えてやらん事も無いと言っとるんだ」


つまり美味い酒を作る為に酒造りの現場を見にきたら美味い酒を造ったら見せてやると?


矛盾じゃないですか!!!


「おいおい、そりゃあ厳しすぎだろギル」


「魔法で美味い酒を作ってくればいい、すぐできるだろ」


この状況如何しろと?

完全に詰んでると思った状況だったが意外な所から救いの手がさし伸ばされた。


「親方大変です!!シュバリエウイスキーの樽が!!」


尋常でない様子の店員が店の奥から駆け込んできた。


「落ち着けぃ!樽がどうした!!」


「た、樽が、樽の木が魔蝕症に罹っていたんです!!!」


その瞬間店の中が凍りついた。


魔蝕症というのは植物の罹る病気で、何らかの原因で植物に魔力が流れ込み正しい成長を妨げその姿が歪になってしまう病気だ。

怖いのは伐採した木材でも罹ることだ、伐採して切った木の中にまだ魔蝕症が発現していない木材が混ざっていて、

ある日突然魔蝕症が発症し木材を歪め最後には家が倒壊することも極まれにある。

伐採した木が歪む事から病気ではないのではないかとも言われているが、今はそこを気にしている場合じゃない。

魔蝕症がウイスキーの樽で発症したと言うことは樽が歪んで中の酒が漏れたということだ。


「そんな馬鹿な!何で今頃魔蝕症が発症するんだ。シュバリエウイスキーの樽はまだ20年しか経ってないんだぞ!!」


カウンターにいた店員の一人が叫ぶ、確かにウイスキーの樽は長く使う、それだけ長い年月病気が発症しなかったとは考えづらい。


「それが、前に壊れかけてた樽の代わりに補充した奴が魔蝕症に罹っていたんです」


「そんなはずはないだろ!あの樽は高い金を払って魔法で病気検査をした樽だぞ!」


魔法で病気の検査をするというのは良くある話しだ、長い時間をかけて造る酒などは途中で異物が入ってしまったら台無しになる危険が高い。

だからその食料品を作る前に機材に検査魔法をかけて安全か確認する、信頼がかかっているので腕のいい魔法使いに頼む人が多くその分代金も高めだ。

この辺で検査魔法の上手い人というとバーミュキューデ伯爵の二男かな。


「落ち着けお前等!!おい!駄目になった樽はいくつだ」


「5個です」


「多いな、今から仕込んでも騎士団の入団式には間に合わねぇ、兎に角知り合いの蔵に頼んで数を確保しろ!!」


「樽5個は無理ですよ、元々手間が多くてあんまり作る奴もいないんですから」


「作っても近隣の騎士団が持っていきますし」


「俺の店の在庫をだそう、知り合いにも聞いてみるがあまり期待するな」


どうやら在庫的にかなり厳しそうだ、余り出回らないってヴェッカさんも行ってたしな。

確か騎士団の入団式は半月後、だが造るのに時間がかかる以上在庫が確保でき無ければ詰みだ。

しかも騎士団って言うのが不味い。

相手は貴族だ、彼らの前途を祝す日に祝いの酒が無かったら大恥だ。

どこかから聞きつけた他の貴族達から酒も満足に用意できないのかと馬鹿にされる。

そんなことになったら怒り狂った騎士団のお偉いさんによって恥をかかせた酒蔵は取り潰されるだろう。

従業員全員の命をもって償わされる。


だが俺にとってこれはチャンスだ。


「俺からも協力させてください」


とたんに店の視線が俺に向く、お前が?と言いたげな顔だ。


「お前が協力?魔法で作ってくれるのか?」


「はい」


「樽5個も作れんのか?」


「やってみましょう、ヴェッカさん、この酒蔵のシュバリエウイスキーは先ほど飲ませてもらった物と同じですか?」


「ああ、去年ここで仕入れた奴だ」


「では樽と材料を用意してください」


「材料と樽の仕入れに時間がかかる、3日待て」


「分かりました、では3日後にまた来ます」


「ちょっとまて、おい!今年のシュバリエウイスキーを一本詰めて持って来い」


ギルガメスに言われて店員がシュバリエウイスキーの入ったボトルを持って来る。


「去年の奴は出来がイマイチだった、アレをウチの味と思われちゃたまらねぇ。コイツが今のうちの味だ」


「分かりました、じっくりと味を学ばせてもらいます」


「代わりになるモンを造れたらウチの蔵を見せてやるよ」


「必ず見せてもらいますよ」



屋敷に帰った俺は早速ギルガメスさんからもらったシュバリエウイスキーをストレートで口に含む。

確かにヴェッカさんのところで飲んだのとは味が違う、基本は同じ味だがジワリと来るものがある。

更にロック、ハーフロックホットなど様々な味わい方をして味を確認する、味だけでなく匂いや

喉を通るときのカッとなる酒特有の感じを楽しむ。


味を確認したら早速市場で集めてきた材料で試作品を造る。

今日は酒を入れるための小樽とボトルも用意してある。

呪文を唱え材料が形を変えて小樽に注がれていく。

早速出来上がったものを呑んでみる。


だがギルガメスさんの味では無かった、だいぶ近いが何か違う、材料が違っているのかな?

同じワインでもそれぞれ別の場所から取り寄せた葡萄で二つのワインを造ったら味が違った。

材料は向こうが用意しているので明日ヴェッカさんに聞いてみよう。



翌日ヴェッカさんの所に昨日作ったウイスキーを持っていって味の違いを確かめてもらうついでに聞いてみた。


「ああ、あいつの所は独自に仕入れを行っているからな、市場の大麦とは味が違うんだ」


「その違う大麦っていつでも取れるんですか?」


「魔法で年中色々な植物が取れる様に温室ごとに季節が違うらしい」


「かなり手間がかかってますね」


「年中好きな季節の果物を食べたいって奴はいるからな、そういう需要の為の魔法だろうよ」


「常夏島や常冬島ですね」


「ああ」


常夏島とは魔法で年中夏の気温で調整された島だ、常冬島はその冬版。

レジャー用に調整されており行楽を楽しむ為、年中人でにぎわっている。

大貴族には専用の島を持っている者もいるらしい


「ウチで飲みまくったお陰でだいぶ味が良くなってきたな」


ヴェッカさんが俺の作ったウイスキーを批評してくれる。


「その辺の酒場なら十分売り物になるレベルだ」


「ありがとうございます」


「作れるか?」


「やってみないと何とも、明後日を楽しみにしてください。」


「頑張れよ」




そして3日が過ぎ俺は再びギルガメスさんの酒蔵に来ていた。


「材料と樽は用意してある、まずはこの子樽でやってもらおうか」


「分かりました」


当然のことだがいきなり大樽で造る事はない様だ。

俺はギルガメスさんからもらったボトルの残りを軽く口に含んで味を確認する、

子樽には用意された大麦が入っている、俺は大麦を見ながら呪文を唱える。

先ほど呑んだシュバリエウイスキーの味を細部まで思い出す、言葉に出来ない呑んだときの味わいを、感覚を思い出す。

次の瞬間子樽には大麦の姿は無く変わりにウイスキーが入っていた。


「うぉぉ!!もう出来たのか!!」


「これが魔法、分かっちゃいたけどズルイよな」


「まだ味を見ないと分からないだろ」


「そうだな、これで不味けりゃ話しにならん」


ギルガメスさんが子樽の中の酒をグラスに移して口に含む。


「・・・・・・・・・・・・」


無言で酒を味わい続けたギルガメスさんは言った。


「及第点だ、5樽頼めるか?」


「・・・!任せてください」


「親方、大丈夫なんですか?」


「呑んでみろ」


ギルガメスさんに言われて子樽の酒を飲む店員達。


「ウチの味だ」


「マジかよ」


「魔法すげぇ」


店員達は複雑な表情だ。


俺はギルガメスさんに連れられて中に入っていく、途中体を消毒したり予備の仕事着に着替えさせられたりした。

蔵の中には大量の大麦と5つの樽が置いてある、どうやらあれが俺の造る酒のようだ。


「やってくれ」


俺は樽の前に行くと早速呪文を唱える。

次の瞬間大樽の大きさの10分の1の量の酒が樽に溜まる。


「おい、何だこの量は」


「魔法でつくれる量には限りがあるんですよ、量を作るには何度も魔法を使う必要があります」


「なるほど、樽を満たすにはどれくらいかかる?」


「この量だと1日に5回が限度です、今後鍛えて行けば増えるでしょうけど」


「てぇことは1日半樽、全部作るのに10日って所か」


「余裕を持って12日位見たほうがいいですね、あと味が変わらないように定期的にギルガメスさんの味を確認する必要があります」


「面倒だな、いや手間を考えれば寧ろ簡単か」


「イメージが重要なんで間をおくと味のイメージがぼやけちゃうんですよ」


ギルガメスさんの酒のコピーを造って売れないもう一つの問題とはこれだ、

イメージによって味が変わりやすいので均一な味を揃えずらいのだ。

味がころころ変わっては売り物としては問題だ。

これは俺が未熟だからなのかそういう魔法だからなのかどちらなのだろう?

いずれはどんな酒も再現できるようになるのだろうか?


俺は魔法を使うごとにギルガメスさんの酒の味を確かめて魔法を使っていく。

そうして10日を過ぎた頃には全ての樽が埋まっていた、一応予備を含めてもう二樽作る予定だ。


「助かったぜ、入団式の酒を揃えれなかったら貴族に恥をかかせたって理由で俺たちゃ処刑されてたかも知れねぇ」


「お役に立てて何よりです」


「約束どおりウチの蔵を案内させてもらうぜ、・・・いやさせて下さい、アーク様」


「止めてくださいよ、いつもどおりの口調でかまいません、ヴェッカさんだってそうでしょう?」


「あ、いやしかし恩人の貴族様に無礼な口は・・・・・」


「今さらですよ」


俺としても今更敬語で話されても気持ち悪いし、なにより俺を貴族として媚びへつらわず普通に話しかけてくれる人間は非常に貴重だ。

いままで俺に敬語で話しかけた連中は俺がローカリット家の三男だと聞くと直接口にしないものの視線や言葉に魔法の使えない出来損ないを嘲笑したり哀れんだりする空気を滲ませるからだ。

だから職人としてのプライドの高いこの人の無礼を俺は気に入っていた。


「で、では、あ、いや、あー・・・ゴホン、好きに見て行ってくんな」


こうして俺はギルガメスさんの許可を得て酒蔵の見学が出来るようになった。

九死に一生を得た店員達も多少含むところは残っているものの恩人である俺に対する態度はずいぶんと柔らかくなっていた。



「そんなことがあったのか」


遊びに来たシエラは俺のベッドでゴロゴロしながら今回の顛末を聞いていた、猫みたいだ。


「途中にゴタゴタがあったけど上手くいったよ」


「それでこれがその経験を元に作ったシュバリエウイスキーだ」


シエラにウイスキーの入ったグラスを渡す。


「ふむ、ベッドでまどろむ私に強い酒を飲ませて悪戯する気だな、何というエロい男だ惚れるぞ」


「人のベッドを占領してる奴が言うな、あとお前は悪戯する方だろ」


「その通りだ、・・・美味いな、だが私はもっと甘い酒が好みだ」


「左様で」


コイツは結構味の好みが激しい、美味い不味いははっきり言ってくれるのでありがたいが。


「コレまだあるか?」


「気に入ったのか?」


「父上のお土産にする、母上のお土産に赤ワインを、私のお土産に白ワインを頼む」


「はいはい」


本来なら代金を請求する所だがシエラには相当世話になっているからそんなことは言えない。

俺は使用人に命じてワインの材料の葡萄を買ってこさせる。


「ところで」


シエラが枕で口元を隠しながら話しかけてくる。


「ん」


「悪戯しないのか?」


「しません」


何を言っているんだコイツは。


「むー」


機嫌を損ねてしまった、そんなに悪戯してほしかったのか。

暫くまったりしていると部屋がノックされる、使用人が葡萄を持ってきたようだ。


「開いているよ」


「邪魔するぞ」


以外にも部屋に入ってきたのは葡萄を袋いっぱいに詰めたヴェッカさんだった。


「屋敷の前でお前の所の使用人に会ってな、お前に合うついでに荷物を預かった」


「それは申し訳ありません」


「気にするな俺が強引に預かっただけだ」


使用人を叱るなと言う事らしい。


「分かりました、それで俺に用件とは?」


「ああ、ギルガメスの所で起きた樽の件で追加で分かったことがあった、で、当事者のお前さんの耳に入れておこうかと思ってな」


「といいますと?」


「あの後ギルガメスが樽を売り渡した店に怒鳴り込んでな、それを聞いて顔を青くした店主が樽をギルガメスの所に納めた店員を問い詰めようとしたらそいつはすでに店を辞めていたんだ」


「逃げられたってことですか?」


「ああ、これは何かあると思ってな、俺とギルガメスも伝手を使ってその店員を探してみたら、何とそいつは別の酒蔵の主の親戚でな。

酒蔵の主に言われてギルガメスの酒が駄目になるように病気検査をした樽と入れ替えたらしい。」


「それ、不味いですよね、調べればこの結果に行き着いたでしょうし」


「ああ、樽の衛生管理の金をケチって酒を駄目にしたとギルガメスの評判を下げるだけのつもりが、よりにもよってその樽が騎士団に納める酒の樽だった訳だ。

余りにも大事になったんで酒蔵の主も肝を冷やした事だろう」


「それそこの酒蔵唯じゃ済みませんよね」


「ああ、親戚が勝手にやったことだと言ってその酒蔵は知らぬ存ぜぬを通している、今頃騎士団に賄賂の金を大量に支払って自分達に害が無いように取り計らってもらっているだろうな。」


「その店員一人が罪を押し付けられた訳ですか」


「それだけではすまないと思うぞ」


話を聞いていたシエラが会話に加わってくる。


「シエラちゃんの言うとおりだな、表向きは無罪放免でも悪い噂は広がるもんだ、あの蔵から酒を買う奴は減るだろうし売れても買い叩かれるだろうな」


「悪いことは出来ませんね」


「お前はしてくれないけどな」


「・・・・・・じゃ、俺は帰るぜ」


変に気を利かせたヴェッカさんがそそくさと部屋を出て行く、この状況でどうしろと?


「さてお土産の酒を造りますか」


「悪戯・・・」


「・・・・・・」



シエラの要求に負けた俺はセクハラにならないように細心の注意を払いながらシエラの相手をするのだった。

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