第89話「僕はこの世界が……」
世界が壊されるのを、見ているだけ──?
(そんな……! 何か方法はないのか? あの化け物を止める方法は……!)
空を覆う暗雲が雷鳴を轟かせる。
銀の巨女が、甲高い笑い声を上げてゆっくりと歩き出した。
──ズガン!
巨大な足が、行く手を遮る城門を蹴っ飛ばす。門は積み木のように軽々と崩れてしまった。
(くそっ、このままじゃ……!)
セシルはきょろきょろと辺りを見回す。
隣には絶望に沈む
そして、魔法陣の外には……
(……あれだ!)
エルフの姫とその子どもたちが受け継いできた日記。
すべての発端となった、あの日記がなくなれば……。
セシルは日記を拾い上げ、シルヴィアに向かって投げた。
「シルヴィア! これを燃やして!」
「任せて!」
シルヴィアが短く何か唱えて、日記は空中で激しく燃え上がる。
……しかし、銀の女の歩みは止まらない。
「……無駄だ」
ジスランが力なくつぶやく。
「
「じゃあどうしたらいいのよっ!」
シルヴィアが声を荒げる。
わかんねェよ……とジスランは吐き捨てる。
アルファルド一の
状況は絶望的だった。
(くそ……!)
──それでも、セシルは諦めなかった。
(僕は……嫌なんだ! この世界がなくなるのが……! 何度も何度も、生きるのが嫌になったけど……。でも、僕は……この世界が……)
辺りを見回し、武器を探す。
当然、ここに弓矢はない。
(みんなと出会えた、この世界が……)
セシルは飛んできた城門の欠片を拾い上げて、銀の女に向かって投げた。
拳ほどの大きさのそれは女の肘にあたり、背中を向けていた女がセシルそっくりの顔で振り向く。
そして、
「あっ……!」
『セシルッ!!』
ラクロ、テレジオ、シルヴィアの声が重なった。
銀の女はセシルを掴み上げ、悲鳴のような笑い声を響かせながらセシルの小さな身体を口元に持っていく。
大口を開けた巨人の口腔には、歯も舌もなく、ぽっかりと空いた深淵の闇がセシルを飲み込もうと迫り──
(──喰われる!)
──セシルの瞳が、赤く輝いた。
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