第69話「地下牢の少年」
部屋は広く、エドウィンの自室と同じくらいの大きさだった。
しかし……と、お坊っちゃま育ちのエドウィンは思う。
(質素だ……)
金の飾りも天蓋もなく、ただ木を組み合わせただけのベッドと、同じような造りのクローゼット。
小さな本棚とテーブルと、天井には飾りもなにもないシンプルな光の玉が一つぶら下がっているだけ。
ジスランは、驚くエドウィンの顔を見てウハハと笑い、
「
「あ、ああ……」
「ま、ここ座れよ」
ジスランはテーブルの椅子を引いてエドウィンに座るように促す。自分はベッドの上に尻を置いた。
「おまえさ、なんでこんなとこ歩いてたんだよ? まさか、俺のことを誰かから聞いて、会いに来たわけじゃねーよな?」
「う、うん……。僕、自分で勝手に来たんだ。というか……ええと……」
こんなこと言ったら変に思われるだろうか、と思いながら、
「……なんだか、呼ばれたような気がして……」
「呼ばれたァ?」
一拍おいて、ジスランはギャハハッと大口を開けて笑った。
「そりゃ、もしかしたら……俺の声が届いちまったのかもしれねーなァ」
「君の声?」
エドウィンは首を傾げる。
「いや? 声とかは、特に聞こえなかったと思うけど……」
「いやいや、ホントの声じゃなくて。なんつーの? 心の声的な?」
「心の声……?」
「俺ってばいちおー魔術師だからさァ」と少年はケラケラと笑う。
「魔術ってなんでもアリじゃん? だから、そういう、なんか気持ちが伝わっちまう? みたいなこともあんのかなーって」
「……君、魔術師なの?」
魔術師になるには、相当の才能と努力がいると聞く。
それを、目の前の自分と同い年くらいの少年がクリアしているというのだろうか。
「……すごいね、君」
「そうかァ?」
ジスランは照れ隠しのようにへへっと笑う。
「つーか、おまえもなかなか変なヤツだなァ。声は聞こえなかったけど、呼ばれた気がしたって」
「だって……」
変、と言われてエドウィンは戸惑う。
そんな言葉を言われたのは生まれてはじめてだった。
しかし……不思議と、嫌な感じはしない。
「……本当に、そんな気がしたんだよ」
「ふ〜ん?」
ジスランはニタニタと、なんだか嬉しそうにエドウィンを見つめる。
「な、なんだよ……」
エドウィンは妙に照れ臭くなって、ジスランから視線を逸らした。
「俺さ、おまえと誕生日、一週間しか違わないんだよな」
「え? ……そうなの?」
王子であるエドウィンの誕生日は全国民の知るところだった。
そのため、ジスランがエドウィンの誕生日を知っていても不思議ではないが……。
「ああ。歳も同じでさ」
「へえ、そうなんだ。……なんだか、そこまで同じだと、僕らまるで双子みたいだね?」
顔もなんだか似てるし……と言うと、ジスランは一瞬驚いたような表情になって、
「……だな!」
と、くすぐったそうに笑った。
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