第53話「プレゼント」
「あら~! 色男~!」
ラクロを見たオカマ店主が猫なで声を出す。
ラクロは露骨に顔をしかめた。
「いらっしゃいませ~! お兄さんカッコイイから、全品半額サービスしちゃう~! ゆっくり見ていってね♪」
「…………」
「うっわ……」
ドン引きするラクロとセシル。
「あん? なによ!」
突然店主がセシルを睨む。
「何引いてんのよ! イケメンに優しくするのは当たり前でしょ!? イケメンは正義なんだから!!」
「いや、僕何も言ってないし……」
店主はにっこりとラクロに笑いかけると、商品が並んだ棚の下から大きめのアタッシュケースを取り出した。
「お兄さんには特別♪ うちの店の『本物』をお見せしちゃう♪ ……ほ~ら!」
ケースの蓋を開けると、中からキラキラと輝くアクセサリーの類いが現れた。
「……って、『本物』ってことは他のはやっぱり偽物なんじゃないか!」
「なによ! うるさいわねっ!」
店主が逆ギレする。
「ちゃんと本物も出したんだからいいでしょ!?」
「よくないよ!」
言い返すが、
(……でも、本当にすごく綺麗……)
セシルはケースの中をちらりと見る。
中のアイテムは凝った作りのものが多く、シルヴィアあたりが好んで身に着けそうだった。
「…………」
ラクロは紫色の細かな石を繋げた紐のようなものを手に取る。
値札には「防御力アップ↑↑」の文句と、五万ラントの値段が書かれている。
(高……。貧乏性の僕には買えないな)
「あらぁ~」
オカマの店主がくねくねと身をよじる。
「お兄さん、お目が高いわね! これはかの有名な魔道具職人ヴァルラム・コソプキンが作った髪紐よ。通常なら五万ラントのものが、なんと! お兄さんだけのスペシャル特化で~!」
店主は髪紐をラクロの手から取ると、ポケットから出したペンで「50,000」の上に横棒を二本引いた。
「一万ラント! ……でいいわよ♪」
セシルは疑わしげに目を細めた。
「それ、偽物だからじゃないの……?」
(そのナントカカントカっていう魔道具職人、聞いたことないし……)
「んまぁ! 失礼ね! こっちは本物よ! で、どうするの? お兄さん。この髪紐、普通ならこんな値段じゃ手に入らないわよ」
「やめなよ、ラクロ。こんなの絶対インチキだし……」
「──買おう」
「……え?」
「一万でいいんだな?」
「ええ、いいわよ♪ ……まいど~!」
ラクロは代金を払い、店主から紫色の髪紐を受け取った。
それを、
「ちょっとラクロ……え?」
セシルの手に握らせる。
「え……な、何?」
ラクロは眉間に深い皺を刻んで、不機嫌そうに言った。
「……やるよ」
「え……?」
ぽかんとするセシルを残し、ラクロは速足にテレジオとシルヴィアの元へと歩いていってしまう。
セシルは手の中の髪紐をまじまじと見つめて、
(弱いからつけとけ、ってことかな……? 一応、防御力アップのアイテムみたいだし……。本当に効くのか知らないけど……)
ふふっ、と自然に笑みが浮かんだ。
(でも……うれしいな)
――これが偽物でも、別にいい。
これをくれたラクロの気持ちがうれしかった。
セシルは高く結い上げた髪を解き、ラクロの瞳と同じ色の髪紐で銀糸の髪を結び直した。
んまぁ〜! と店主が冷やすように声を上げた。
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