第39話「秘密がバレた!」

 カタカタと揺れる車内で、険悪な空気をかき消すようにシルヴィアが手を打ち鳴らす。


「さあ、さっさと部屋割りを決めるわよ。といっても、この馬車には部屋は二つしかないし、分け方は一つしかないけどね。……あたしと銀髪、ラクロとテレジオで決定!」


「え!?」


 大きなトランクを抱えて部屋へと向かうシルヴィアの背中に、セシルが声を上げる。


「ちょ、ちょっと待ってよ! ぼ、僕と君が同室っていうのは、問題なんじゃないの!? ほら、僕ら一応男女だし……!」


「あら。それなら問題ないわ」


 シルヴィアはにやりと意味深に笑う。男二人は興味なさそうに、自分の荷物を持って部屋に入っていってしまっていた。


「そのことは中で話しましょ、セシルちゃん」


 ……嫌な予感がした。


***


 シルヴィアの大きなトランクには、きらびやかな衣服やアクセサリーがぎゅう詰めになっていた。


「……調査道具しか入ってないんじゃなかったの?」


「調査道具『しか』なんて一言も言ってないわよ。それに、これはただのおしゃれ着じゃなくて、魔力を高めてくれる特注の服なんだから」


「ふうん……」


 二段ベッドの下に腰掛け、荷物を広げて洋服の整理をしはじめたシルヴィアは、何気ないふうに「あんたも着たい? こういうの」と言った。


「………………やっぱり、気づいてたんだ?」


「当たり前でしょ。同じ女だもの。一目でわかったわよ」


 シルヴィアはワンピースをしわにならないようにハンガーにかけながら、


「そんな顔してて今までよくバレなかったものね。ほんと、男って馬鹿みたい」


 セシルのほうをくるりと振り返り、


「……あんた、なんでさっき何も言い返さなかったのよ? 腰抜けなんて言われて、悔しくないの?」


「な……なんだよ急に。自分で言ったくせに……」


「だって、あんたって生意気でムカつくんだもの。さっきはその減らず口を叩き返してやりたかったのよ。でも、あんた、あのとき言い返そうと思えばできたじゃない。それなのに、なんであそこで黙っちゃったのよ」


「言い返すなんて……できないよ。だって、全部本当のことだし……」


「何言ってんの?」


 シルヴィアの眉が怒ったように吊り上がる。


「あんた、いつも練習してるじゃない」


「……え?」


「夜。テレジオ・ハイメスと、剣の練習。鍛錬場で」


「え、ああ……うん」


「……だったら、言えばよかったのよ。できない言い訳なんかするつもりないって。……言えなきゃダメなんだから、それくらい。がんばってるなら……自分の努力を認められないなんて、そんなの甘えだわ。自分で認められないくらいの、その程度の努力しかできないなんて……そんなの努力って言わない。自分を甘やかしてるだけなのよ」


「……シルヴィア?」


 シルヴィアは怒ったように唇を引き結び、むっつりと押し黙って部屋を出て行ってしまう。


 セシルはぽかんとその背を見送って、


(今のはもしかして……謝ってた、のかな?)


 追いかけるようにリビングルームへと向かった。


 リビングでは、キッチンの前に立ったテレジオがお茶を入れようとしていた。


「おや。セシル、いいところにきました。今、お茶を入れるところだったんです。セシルも一杯いかがです?」


「あ、じゃあ……いただくよ」


 シルヴィアはこちらに背を向けてソファに座っている。


「せっかくですから、ラクロも呼んで四人でティータイムにでもしましょう」


 言うと、テレジオはシルヴィアの分のお茶をセシルに持たせ、一度奥の部屋へと引っ込んだ。


 セシルは二人分のお茶をテーブルに置いて、シルヴィアと向かい合ってソファに座った。


「……心配しなくても、言いふらしたりしないわよ」


「え?」


「あんたの性別のこと。言ってもあたしにメリットないしね。……なに? それが心配でついてきたんじゃないの?」


「別に、そういうわけじゃないけど……」


 歯切れ悪く言ったところで、テレジオが一人で戻ってくる。


「ラクロはいいそうです。では、僕たち三人でお茶にしましょう」

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