第15話「テレジオ vs 騎士団長」

「次は、テレジオ・ハイメス」


「はい」


 王に呼ばれ、テレジオは部屋の中央で、壁に立てかけてあった鎧通し剣エストックを取ったダリアンと向かい合う。


「血の気の多いガキの次は優男……で、残るはかわいい顔した美少年か。小綺麗なパーティだなぁ」


「僕はラクロに比べれば強くありませんので、お手柔らかにお願いします」


「そういうやつが一番油断ならねぇんだよ……」


 笑顔のまま、テレジオは動いた。


 袖からナイフを滑らせるようにして出しながら、ダリアンののど元を一直線に狙う。


 上半身を後方にのけぞらせてかわしたダリアンは、テレジオが次の攻撃を放った瞬間に、エストックを突き出した。

 しかし、テレジオはバックステップでそれをかわす。


「おいおい、あんたもなかなかいい動きじゃねぇか」


 テレジオはダリアンの喉元を狙ってナイフを突き出す。

 ダリアンは後ろに大きく飛んで距離をとるが、テレジオはそれを許さずすばやく距離を詰め、


「おっ!?」


 左膝、そしてすばやく左肘にナイフを向ける。

 切断しやすい鎧の関節部分を狙っているのだった。


 ダリアンはそれを間一髪のところで避け、


「のど狙ったり関節狙ったり、おまえそんな顔して解体魔かよ! いい趣味してんなぁオイ!」


「ありがとうございます」


 負けじと態勢を整えて、ダリアンも反撃に出る。


 エストックの突き。

 それにテレジオは横からナイフの刃をぶつけた。テレジオもラクロと同様、武器を破壊するつもりのようだ。


「同じ手を二度も食らうかよ!」


 しかし、ダリアンも油断はしていなかった。エストックを持つ手には、おそらくテレジオが予想した以上の力が込められていて、


「あ……」


 跳ね返すように押されたナイフはテレジオの手を離れ、乾いた音を立てて床に落下した。


 ダリアンが一突きを繰り出す。


 勝負はついた……と思いきや、


「お?」


 エストックがとらえたと思ったテレジオの影は、ダリアンの真上にあった。


 テレジオは、ダリアンの頭に右手をついて、異常な身軽さでくるりと一回転し、ダリアンの頭上を飛び越えていた。


 タン、と音を立てて、テレジオは華麗な着地を決める。


 そして袖から二本目のナイフを取り出し、背後から抱え込むようにダリアンののど元にそれを押し付けて、


「……僕の勝ちですね」


 と、笑った。


「……負けたよ」


 ダリアンはやれやれ、と苦笑いで頭を振った。テレジオは首に回していた腕を外し、満足そうな顔でセシルとラクロの元に戻ってきた。


***


「次の、セシル・エクダルの相手だが……気が変わった。ダリアン。おまえはもう下がってよい」


「……え?」


 王の言葉に、ダリアンが間抜けな声を出した。


「代わりに……シルヴィア」


 王が座る豪奢な椅子の後ろに、カーテンで仕切られた通路があった。

 その通路から、コツコツと固いものが地面を叩く音が聞こえくる。


「──はい」


 そして、一人の女が姿を現した。


 桃色にきらめく豊かな髪。

 白地に金の刺繍を施したローブには、左胸に剣を模したアルファルド国家の紋章が取り付けられている。


 女は頭に宝石のついたようなロッドを軽く揺らして、小さく何事かを口にした。


 すると、女の身体がふわりと浮きあがり、空中浮遊のすえにセシルの目の前に、真っ赤なハイヒールを着地させた。

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