第14話「ラクロ vs 騎士団長」
通されたのは、王宮の敷地内にある騎士団の鍛錬場だった。
謁見の間ほどの広さが設けられホールのような室内の一番奥の壁には、床から五メートルほどの高さのところに、せり出した物見席が設けられていた。
バルコニーのようなそこには豪奢な椅子が置かれており、ヴィクトル王が腰かけている。
セシル、ラクロ、テレジオの三人は、鍛錬場の扉が開く音で入り口を振り返った。
外の光が差し込む入り口から、赤茶色の髪を伸ばしっぱなしにした体格のいい男が入ってきた。
「遅くなってすみません」
二十代後半ほどに見える彼はまっすぐにセシルたちを見て、きびきびとした動作で鍛錬場の中ほどまで歩いてきた。
男は「三人もいるのか……」と苦笑して、
「おまえたちが入団希望者か。俺がアルファルド王国騎士団長、ダリアンだ。よろしくな」
ニッと笑う。その表情にはどこか人懐っこい雰囲気があった。
「ラクロ・ハイメス」
王がラクロの名前を呼んだ。
「はい」
「一番手はおまえだ」
ラクロが鍛錬場の中心に進む。
と、すぐに足を止めてセシルを振り返った。
「……よく見ておけよ」
「え?」
ラクロは察しの悪いセシルに苛立つように眉を顰め、
「せっかく一番手じゃなかったんだから、戦闘中のあいつをよく見ておけよ。弱点を探すんだよ。弱いおまえでも勝機をつかめる隙をな」
そして、さっさと歩いてダリアンが待つ部屋の中心部へと行ってしまう。
「な、なんだよ……?」
(急にアドバイスなんかしてくれちゃって……)
ラクロとダリアンが向かい合うと、途端に場内は緊迫した空気になった。
「じゃ、よろしくな」
ダリアンが軽い調子で言い、
「っ……!? っと!」
先に動いたのは、ラクロだった。
大股で距離を詰め、腰の剣を引き抜き、ダリアンに斬りかかる。
ダリアンはそれを幅の広い両刃の
(今、ラクロの攻撃を片手でいなした……!?)
前のめりになったラクロは、転がるようにしてすぐに体勢を立て直し、
「……おまえ、細いわりにすごい力だな」
「剣一本で来たことを後悔したか?」
にやり、とお互いに唇の端をつり上げる。
「おいおい、何も殺しあおうってわけじゃないんだぜ?」
「なめてると負けるぞ。王国騎士団長様ともあろうお方が」
「見かけによらず、血の気の多いやつだなぁ……」
今度はダリアンが先に動いた。
カンカンカンカン! とダリアンの剣が高速でラクロを襲う。ラクロもそれに応酬しているが、少し押され気味のようだった。
(あのラクロが……)
二人の戦いをハラハラと見守るセシルを見て、
「ラクロなら大丈夫ですよ」
とテレジオが言った。
「ラクロの一番の得意分野は剣ですからね。彼が、得意な剣で負けるはずがありませんよ」
ふうん? とセシルは首を傾げる。
「……あのさ、前から気になってたんだけど、君たちってどういう関係なの? 苗字は一緒みたいだけど、顔は全然似てないし、兄弟ってわけでもなさそうだし……」
「僕とラクロが兄弟! それは傑作ですねぇ。……うーん、どう言ったらいいでしょうか……。まあ、僕はラクロに忠義があるのですよ」
「忠義?」
(よくわかんないけど、何か借りでもあるのかな?)
「そうです。だから、あなたのようにラクロと友だちにはなれないんですよ。……だから時々、ちょっとあなたが羨ましくなるときがあります」
「ええっ……何それ? ていうか、僕とラクロは別にそんなんじゃ……」
「ふふふ。ラクロと仲良くしてあげてくださいね。それと……」
キィンッ! と、一際大きな金属音が響いた。
「……え?」
いつのまにか、劣勢だったラクロがダリアンを押し切り、その手に持った剣をへし折っていた。
宙に舞った刀身が、カランと音を立てて床に転がる。
「……俺の勝ちだな」
「やるなぁ、おまえ」
ラクロが笑い、ダリアンがやれやれと頭を振った。
(今、何か言った……?)
セシルは、にこにこと笑いながらラクロと交代で部屋の中心に進み出るテレジオの背中を見つめていた。
(「ラクロを止めてください」って、聞こえたような気がしたんだけど……)
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