第13話「王の間」

 しばらくして、推薦状を持っていった騎士が戻ってきた。


「確認が取れました。お待たせしました。どうぞ中へお入りください」


 騎士が合図をして、他の鎧たちが重たそうな鉄門扉をゆっくりと開ける。


 門の向こうには、丁寧に手入れされた広い庭が広がっていた。


「こちらへ」


 騎士が先頭に立って歩き出す。その後ろにラクロ、セシル、テレジオの順で続いた。


 広い庭園を抜けた先には大きな真っ白い扉があった。

 それを抜け、建物の中に入ると、


(うわっ……!)


 まず、扉の向こうには巨大なエントランスホール。

 天井はとても高く、大理石の壁は白く輝いていた。正面には広い廊下が伸びていて、その左右両側には緩やかなカーブを描く階段がある。

 階段を上った先には黄金色の王の像が飾られており、頭上にはキラキラと豪奢なシャンデリアが輝いていて。


(これが、国内最大の建築物……!)


 ──王様の、住処すみか


 騎士はエントランスホールの正面に伸びた廊下を歩いていく。


 長い廊下の右手側には天井まで届く大きな窓。そこから差し込む日光が、左手の壁にかけられた代々の王や貴族たちの肖像画を照らしていた。


 セシルたちはホールのような謁見の間に通された。

 そこには金色の玉座とその主人あるじがすでに鎮座しており、セシルの緊張は一気に高まる。


 ヴィクトル・アルファルド四世。


 今セシルたちが暮らすアルファルド王国を治める現国王は、御歳おんとし四十二歳だと聞くが、その精悍な顔は三十代半ばほどに見えた。


 セシルは自然にこうべを垂れる。


 その人には、他人をひれ伏させるオーラがあった。


(これが王の威厳か……)


「頭を上げよ」


 跪くセシルの頭上に、王の声が降りかかった。


「セシル・エクダル」


「は、はい」


 ……声が裏返ってしまった。


「おまえがハーシェル子爵の推薦状にあったセシルか。弓の名手という」


「はい、そうです」


(弓の名手なのかはわからないけど……)


 ヴィクトル王はふむ、とうなずく。


「王国騎士団に入る意志はたしかか」


「…………」


 ──ほんの少しだけ、ためらった。


 でも、ここまできて、もうあとには引けなかった。


「……はい」


 セシルはうなずく。


(これで、もう……)


 ──逃げられない。


「では、これから入団試験を受けてもらう」


「はい?」


 また声が裏返った。

 だって、試験があるなんて聞いていないし。


 案ずるな、と王は言う。


「おまえに力があるのなら、何も心配することはない」


「…………」


(そ、そう言われても……僕、基本的には弱いしなぁ)


「あ、あの、試験ってどんな……?」


「ちょっとした模擬戦闘だ。なに、心配することはない。死にはしないだろう」


 背中を冷や汗が流れた。


(し、死にはしないって……)


「……ヴィクトル王」


 ……と、そのときラクロが声を発した。


「俺も、アルファルド王国騎士団への入団を希望します」


 セシルは一歩下がった位置にいたラクロを振り返る。

 ラクロは王宮の厳粛な雰囲気にも気後れした様子はなく、意志の強い目でしっかりと王を見据えていた。


「……ほう?」


「僕もです」


 と、続いたのはテレジオ。

 今度は驚いて彼の方を見る。


(テレジオも? まさか、この人も最初からそのつもりできたのか?)


「おまえたちは戦えるのか?」と王が訊く。


「はい」


 ラクロが答える。


「ほう。では二人、名前は」


「ラクロ・ハイメス。元ハーシェル私兵隊所属です」


「同じく、テレジオ・ハイメスです」


(同じ苗字……)


 やはり、二人は親戚か何かなのだろうか?


(というか、勝手に「元」私兵隊とか言ってるし……)


 ヴィクトル王は二人を見て、


「入団希望者が多い分には構わない。知っての通り、今は騎士団を強化したい時期なのでな。では、おまえたちにも入団試験を受けてもらおう」


「喜んで」


「ありがとうございます」


 ラクロとテレジオは同時に頭を下げる、


「……?」


 ──そのとき、一瞬だけ見えたラクロの薄い唇は、歪んだ弧を描いているように見えた。

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