第12話「はじめての都会」

 王都エンデスは、アルファルド王国の中心から少しだけ西北にいったところにある。


 王都がここに作られたのは今から約千年も前の話だ。

 遠い昔、まだこの地に街が作られる前、人とアンシーリーはある一つの秩序のもとで平和な共生を実現していた、らしい。


 しかし千年前、「大厄災」が起こり、その秩序が崩壊した。


「へぇ~」


「へぇ~って……おまえ、こんなことも知らなかったのかよ」


 ラクロが鼻で笑う。セシルはむっとして言い返した。


「悪いかよ? そんな伝説知ってたって、何も得しないだろ」


「常識だろうが、これくらい。なんで知らないのか不思議でならねぇな」


「ムカつく……! 知ってて当然なら、それくらいで偉そうにするな!」


「呆れてんだよ、おまえの非常識ぶりに。非常識なのはその女顔だけにしてほしいもんだ」


「顔は関係ないだろっ!」


 セシルが言って、その声の大きさに周囲の視線が集まる。


 セシルたちが歩いているのは、王都エンデスのメインストリートに通じる大通りだった。

 当然人の数も多く、セシルは集まった視線に居心地の悪さを感じ、コホンと咳払いをして仕切り直す。


「……で、その大厄災って、一体なにが起こったわけ?」


「知るか」


 至極完結に答えたラクロに、セシルは拍子抜けする。


「なんだよ。偉そうにしておいて、君も知らないんじゃないか」


「そこまでは伝えられてねぇんだよ」


「とにかく、その大厄災のせいで精霊たちが滅びてしまったんだそうですよ」


「精霊?」


 セシルはテレジオの方に顔を向けた。


「世界の精霊……エルフのことですよ。セシルも名前くらいは聞いたことあるでしょう?」


「ああ、うん。それなら」


 エルフ。

 それは、人間ともアンシーリーとも区別された存在。


 賢く、人の何倍も長く生き、魔術に長けていたという伝説上の種族。

 姿形は人間に似ているけれど、耳が長くて皆美しい顔立ちをしていたと言われている。


 遠い昔に絶滅してしまい、今では各地に関連した伝承が残っているだけなのだとか。


「人とアンシーリーの平和共生を保っていた秩序というのは、エルフの存在だったんですよ。しかし、大厄災の結果、エルフは絶滅してしまった。大厄災とはエルフが生んだ超魔術だったのではないか、と言われているそうですが……しかし、今に至るまでその謎が解かれたことはないのだとか」


「へ~、世界最大の謎ってことか。でも魔法が得意なエルフを絶滅させたってことは、よっぽどすごいことが起こったんだろうね」


「そうですねぇ。……で、そのあとはセシルの知っている通りですよ。アンシーリーは自然に帰り、人は国を作った。そのときにできた国が現在の大国、アルファルドとイルナディオスの元になったんですね。この街の原型が作られたのもその時期ですよ」


「なるほどね。それにしても、王都ってやっぱり賑やかだね。街も綺麗だしさ」


 王都エンデスは千年前に作られたとは思えない、白っぽく統一された街並みをしていた。


「全部が全部こう、ってわけではないみたいですけどね。北の方には、カンデロ地区という貧民街もあるそうです。王都エンデスで最も治安が悪い地区らしいので、近くを通るときには注意が必要ですね」


 メインストリートは先ほどの通りよりももっと賑やかだった。出店の数も多く、ルンベックの街などでは滅多に見られない、魔術を商品にした店などもある。


 そして、メインストリートの真正面には王宮がそびえたっていた。


「あれがアルファルド国内最大の建物、メランデル宮殿ですね」


「国内最大なんだ? テレジオ、詳しいね」


「事前にいろいろと勉強してきましたからね」


 通りは直接王宮の門前につながっていた。


 やたらと大きい鉄の門の横には、右に二人、左に二人の騎士が整列している。


「あの……ハーシェル子爵からの遣いの者です」


 セシルが子爵からの推薦状を取り出し、騎士の一人に手渡す。


 銀色の鎧をつけた騎士はその封蝋を確認し、


「しばしお待ちください」


 と、巨大な鉄門扉の横にある小さな扉から中に入っていった。

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