新訳 反三国志 蜀志立身伝

刑部レオンジ

第1章 第1話 とある日の州牧府にて

194年、徐州・徐州城


机にどっさりと山積みにされた書簡。

それらにせっせと目を通し、筆で文字を書いたり、時には判を付いている男がいた。


この男は劉備。字は玄徳。

三國志演義では主人公を務め、激動の乱世を生き抜いた英雄である。

鼻の下には少し生やしたヒゲ、幸運を呼びそうな福耳、膝まで届く長い腕。

これが彼の特徴だった。


劉備

「だぁぁぁぁぁぁぁ~っ!!やってられるか!!」


彼はそう言って机に倒れるように伏せた。


劉備

「いつまでやってりゃいいんだい?」


劉備は傍らにいて作業していた男に嘆いた。

「玄徳、そりゃあ終わるまでさぁ…」


劉備を字で呼び、飄々と答えた。

彼の名は簡雍。

同郷出身の劉備とは若い頃からの旧知の仲であり、義勇隊結成時から各地を転々としてきた。

傲慢で無頓着、劉備が出席するような席でもだらしない振る舞いをするような人物だった。

でも、そこが簡雍の魅力でもあった。


簡雍

「私だって珍しくちゃんと働いてるんですからお願いしますぜ、徐州牧殿!」

簡雍はわざとらしく官職名で友を呼んだ。


劉備

「はぁ…。ちょっくら外の空気吸ってしてくるぜ…。」


劉備は外へ向かった。



◇徐州城・城壁


劉備

「はぁ~。部屋に篭って仕事するにゃ、もったいない天気だなぁ~。」



劉備は背伸びをしながらそう言った。


「劉備様ぁぁ~!」


劉備

「ん??」

劉備は声のするほうを見た。

城壁近くで遊んでいた子供たちが手を振っていた。


劉備

「あんまり門の近くで遊んでたら兵士のお兄さんに怒られちまうぜ~?もう少し向こうで遊びなぁ~!!」

劉備は手を振り返しながらそう言った。


子供達

「「はぁ~い!!」」


子供達は声を揃えて返事をした。


劉備

「ん~いい子供達だ…。子供達がこうやってのびのび遊んでいられるってことはいいことだ。うんうん。」


劉備は一人で頷いていた。


劉備

「ダメだ、俺も外に行こう。こんな日にゃ狩りもいいが草原でうたた寝も気持ちよさそうだ…。」


劉備は変装をしてこっそりと城を抜け出した。

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