その3
それから彼女との交際が始まるまでに、時間はかからなかった。
彼女のほうから告白された。
曰く、待っているだけだと一生始まりもしないと思われていたらしい。
始まりもしなければ、終わりもしない。
今となってはどちらの方が正解だったのかなんてわからない。
しかし、当時の私もそれを了承した。
それで充分なのだろう。
彼女が私を求めたように、私も彼女を求めるようになっていた。
付き合い始めたからといってそれまでの生活が変わるようなことはなかった。
登下校を必ず一緒にするようになったくらいだろうか。
その程度の些細な変化だったが世界が大きく変わったように感じられた。
彼女と会える朝が待ち遠しくなり、彼女と離れる夜はひどく寂しく感じられた。
そんなことを考える自分が少し気恥ずかしいような、そんなむず痒さを感じることもあったけれども悪い気はしない。
彼女と過ごす日々はあっという間で流れるように過ぎていった。
私たちの学年も上に上がりいつの間にか最高学年になり周囲もいつの間にか受験にむけて集中していく時期になっていた。
その中でも二人でいる時間は特別なものになっていた。
だからと言って、二人でいても進路を決めるというのは頭がいたい問題だ。
就職か進学か。
二択と言いつつもほとんど進学に決まってはいるのだが。
彼女についてはどちらでも進めるようにしているらしい。
仮に進学したとしても彼女と私とでは学力に差があるため一緒の大学に通うということはなさそう。
どの選択を取っても卒業のタイミングで離れ離れ。
多くの時間を彼女と共に過ごせるのも今この一瞬しかないのかもしれない。
その思いが強くなればなるほど彼女と過ごす時間が瞬く間に過ぎていってしまうようだった。
「あなたと一緒のキャンパスライフ。とはいかないけれど頑張りましょう。」
彼女の言葉に励まされる。
気が滅入りそうな勉強漬けの毎日の清涼剤といったところか。
彼女の存在が私の中でそこまで大きくなっているということか。
そんな毎日もあっという間に過ぎ、試験が近ずいてくる。
彼女との勉強会の日々も終わりが見えてきた。
「ちょっと心配だったけどここまで勉強すれば大丈夫そうね。あなたならもう大丈夫よ。本番も頑張ってね。」
彼女の微笑みをみてるときっとそうだ、大丈夫だと安心してしまう。
「いやー、あとは本番で出せるかだからね!油断はできないよ。」
「あら。その調子なら本当に大丈夫そうね。慢心して怠けちゃったらどうしようかと思ったわ?」
くすくすと笑いながら彼女がいう。
実際慢心しているというような事はなかったし油断できないというのも全くの本心からだった。
浪人は避けたい。
というよりも、彼女から取り残されてしまうのが怖かったのかもしれない。
彼女だけ先に進んで私だけ前に進めずに足踏みをしているような、そんなもどかしさを感じずにはいられなかっただろう。
そうこうしているうちに、受験も終わり無事志望高の合格を果たした。
彼女も、大学の合格も就職の内定もどちらも難なく終えていた。
私は大学へ進学するものとばかり思っていた。
しかし、そうではなかった。
「私、就職することにしたわ。」
就職する。
それを聞いて彼女がなんだか遠いところに行ってしまうような、そんな気がした。
進学と違って就職するのは想像しずらくて全く知らない世界だからかもしれない。
就職と進学で別々とはいえ今ほど会うことができなくなるとはいえ彼女と会えなくなるわけではない。
そう思っていた。
卒業とともに彼女は音信不通となった。
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