第3話「人形の誇り」31
「……?」
小さな瞳が二人を見詰める。そこにあるのはしっかりとした人間と同じ感情の色。疑問だった。
「いやいやいや……言ってる意味がわからねえんだけども?」
疑問を抱いているのはルゥだけでなく、昴とレイセスも同じ。グンは今なんと言ったのか。兄姉、と言った。何故このような発言をしたのか。
「言ったはずだが? 試して貰いたい、と」
「んー……それはまあわかる。いかにも、その連れて歩くような口ぶりじゃねえか」
「その通りなんだが?」
「……」
グンの思惑としてはこうだろう。二人に同行させてある程度人間社会に慣れさせ、知識を増やす。そしてそのデータを基に改良を加えていく、という形。どのようにするか、などは到底想像出来ないが。
「嫌なら良いぞ? 協力はしない」
「う……ちなみにその子は何が出来るんだ?」
「ルゥはメルタよりも会話、感情機構を格段に強化している。その代わり知能はそんなに高くは無くて……そうだな六歳児程度には物事を考えられるぞ」
(それでどうしろってんだ……)
昴が腕を組みながら考えているとルゥはぺたぺたと足音を鳴らしながら近付き、服の裾を引く。
「?」
「よろしく!」
「お、おう……」
「よろしくお願いします、ルゥちゃん」
満面の笑みを見せるルゥにたじろぐ昴。どうやら小さい子供――人形なのでこのたとえは正しいのかどうか――は苦手なようだ。その代わりなのか、レイセスはルゥと目線を合わせて会話中。随分と楽しそうである。
「ああ、あともう一つ出来る事があるぞ」
「もう一つ? なんだ?」
「人形の波動を感知出来る。これはメルタの方が性能は高いし、精度もあるのだが……メルタを貸し出してしまうと私の生活が壊れてしまうのでな」
「……戦闘用は作らないんじゃなかったのか?」
すっかり打ち解けてはしゃぐルゥを抱きかかえるレイセス。もうかなり仲良くなっているようだった。目を離した隙に何があったのだろうか。
「あくまでも戦闘回避用だよ。危険を察知する事が出来れば、無闇に首を突っ込む可能性は低くなる。まあ今回はその機能を意図せず使ってしまうようだが……我々技術者と情報収集は切っても切れない縁でな」
まるで苦虫を噛み潰したかのように顔の至る箇所に皺を寄せながら言うグン。それ程までに辛く、身を切るような行為なのだろう。ならば何故――
「なんでそんな重要な事を俺なんかにやらせよう、だなんて思ったんだよ? 今日、しかもさっき会ったばっかりだぜ?」
「そんなのは簡単だ」
昴の疑問を砕いたのはまるで技術者の放つ言葉ではないようで。しかしどこか説得力のある一言だ。
「直感、だよ。なに、心配するな。私の直感はかなり当たる。それと、君はよく良い目をしていると言われないか? 信じるに足る善人の目だよ」
KotoSeka 吹雪龍 @HubukiRyu
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