第3話「人形の誇り」30

 グンに連れられて到着したのは部屋の一部。ここもまた人がすれ違えるかどうか、というレベルに様々な書類や機材が積み上げられている。並べられて寝かされているのは三本。筒状の、棺にも似た何か。しかしこの物体を昴はどこかで見たような事がある気がしていた。この世界ではなく、自分の世界で。それはまるで――


「これは、なんでしょう? スバル知ってますか?」


「……いや多分知らない」


「だろうな。この子らもまだ完成とは言い難いが、実地での経験をさせたいのだ」


 口ぶりから察するに、この中には恐らく、人形が納められている。しかもメルタのように人間に近い。

 グンは三つある内の一つに手を掛けると、動かなくなった。ここに来てやっぱり辞めた、などと言うつもりではないだろうか。変わり者と言われている彼ならあり得るかもしれない。


「どうした……?」


「すまないが、手を貸して貰えないだろうか。重い」


「えぇー……」


 どうやら蓋を持ち上げる事が出来なかったようだ。ならば普段は一体どうしているのだろうか。そのような疑問を抱きつつも昴は大人しく従い、グンの隣に立ちひんやりとした感触の蓋に指を掛ける。


「ゆっくり上げてくれよ? 壊れると直すのが大変なんだ」


「お、おう。というかそんな重くなくねえかこれ?」


「私は技術者だからな」


「うーんそれは関係なさそうだけどなぁ」


 昴の言う様に蓋はそれ程重くは無かったようだ。すんなりと開かれた箱の中身。そこには――


「わぁ……可愛らしい……女の子、ですか?」


 興味深々といった様子で近寄ってきたレイセス。ふと顔が近かったのでそそくさと避ける昴はさすがの判断力だ。レイセスの口にした通り、箱の中には一人の少女が横たわっていた。目を閉じ、気をつけの体勢で。


(ああ――あれだ、よく実験施設的な場所にあるやつだ……こっちは見た目的にはコールドスリープ系だな)


 記憶を手繰り寄せ、先程の既視感の理由を発見する。昴の世界の創作物で見られる光景だったのだ。ただ、実験施設といえば科学力が発達している故、もっと電力ケーブルなどが張り巡らされているイメージだった。


「さあ、起きるんだ。ルゥ」


「ん、んん……」


 まるで安らかな眠りの中に居たかのようにむにゃむにゃと口を動かし、まるで人間がするように起き上がって伸びをする。これも人形だと言うのか。


「んー……おはよう、グン……朝?」


「おはよう。今はもう夜だよ」


「夜……寝る、時間?」


「いや、今日は起きても大丈夫だよ」


 自分の家族にでも語り掛けるかのような優しい声色で。

 ルゥと呼ばれた少女のような人形は目を擦りながら昴とレイセスを交互に視界に入れる。


「……誰?」


 その小さく可憐な唇から放たれたのは当たり前の一言。しかし、グンの口にする一言はあまりにも衝撃だった。


「彼らは今日から君の兄と姉になる人たちだ。短い期間だけどね」

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