第3話「人形の誇り」29

「他に聞きたい事はあるのか?無いのならまだやりかけの作業があるから戻りたいのだが?」


 グンは皿とカップの中身が完全に無くなったからなのか、もう話す事は無いとでも言いたげである。

 昴もこれと言って事件解決に向けての糸口は掴めずに居たので、ここは帰って一度リセットするべきだろうと判断。椅子から立ち上がり、もう一度だけ本当に何も無いかと思案。


「スバル……? どうしましたか?」


「んー……なんかあるんだよ。ここで帰っちまっても良いのかってなぁ……人形についてはもう完全破壊を狙うしかないってのがわかった。という事は俺は一人で行動出来ないって事もな」


 残念ながら昴一人の力では、あの恐ろしい動きをする人形に刃向かう事は不可能だ。別に謙虚にしているつもりでも自分を卑下している訳でもなく、事実は事実として受け止める。


「オレには関係ないから、帰る」


「そうか。帰るのは良いが、メルタの事は内密にな。君の弟に知られると面倒だ」


「ああ……喋ったりしねえよ。どんな技術なのか気にならない訳じゃねえけど、知ったところでオレにはどうしようも出来ないからな」


「ふむ。では、またいつか。なかなか会わないとは思うが」


 グンの言葉を待たず、セルディは早々に立ち去ってしまう。見落としてしまいそうだったが、かなり軽く、気のせいかと思えるレベルでレイセスに対して頭を下げていた、ような。あくまでもレイセスにだけ、というのがポイントである。


「それで、どうだ? あるのか、ないのか」


「うん、聞きたい事はない。けどせっかくだし、一つ――」


 ここまで歩き回って、頭を使って結局はほとんど何も得ずに帰るのはなかなか癪であった。だからこそ、ここで得たいモノを提案する。


「――協力、してくれないか? 勿論タダでとは言わないさ」


 協力者は多い方が良い。恐らくではあるが、彼は敵ではないだろう。


「私に動け、と?」


 眉間に皺を寄せ、あからさまに嫌そうな雰囲気を醸し出す。

 協力要請をしてみるが、特段何かをやって貰おうという気持ちはなかった。短絡的に今回の事件だけでなく、今後この世界に於いての仲間としての打診。勿論なるべくなら引き込みたいものだが。


「そうは言ってないけど」


 故に、嫌と言われれば素直に引き下がるつもりだった。


「まあ、良いぞ。私は動かないが……こちらもせっかくだから、試して貰いたいものがある」


「随分と即決だな……試したいものってのは? 危険なものだったら考えるぜ」


「大丈夫だ。知らぬお嬢様に傷など負わせてみろ? 命はないぞ」


「それは……なんとなくわかる」


 嫌と言う程味わってしまった事だ。出来る事なら思い出したくもないのだが、それを踏まえて行動するという思考回路が既に昴の頭の中に組み込まれている。レイセスだけでなく、クラスに居る女生徒もその対象。


「ふう……ならば付いて来てくれたまえ。お嬢様も、良いですかな?」


「は、はい。どちらへ?」


 ここに来る前からそうであったが、どうやらレイセスは聞き役に徹してしまう事が多いようだ。真剣に聞いてはいるが、まさか自分に話題が振られるとは思ってもいないのか、反応に遅れてしまうようだった。当然、昴が交渉やら何やら一人でやってのけてしまう、という理由もあるのかもしれないが。


「すぐ、ですよ。なるべく近くに置いておきたい性格ですので」


「性格っつうか不精……」


 言いかけて、止まる。さすがに口にしてしまうのはよろしくない。

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