第3話「人形の誇り」19
「弱点、ね……」
モルフォは腕を組みながら目を閉じる。どうやら言うべきか否か判断しているようだった。
「なんだ教えてくれないのか?」
「……別に教えても良いのだけど、ほら剣闘会があるでしょ? だから広められると結構困るっていうか」
「あぁ……自分の人形の弱点を晒す事になるからって?」
剣闘会。頭の片隅に追いやっていたが、言われてみればモルフォの考えは正しいのだろう。わざわざ手の内を晒して、もし昴が敵となったらそこを集中的に狙われてしまうのは明白だ。
「いや、それはちょっと違うんだ。ボクの人形とクレイ家の人形師の作った物とは別物だから……うちの人形を使う人たちに申し訳ないからだよ。一応商売してる訳だし」
「なるほどな。じゃあそっちは良いから……そうだな、犯人側の人形の弱点についてはどう思う?」
たとえ苦手な相手だろうとも、昴の知らない人間にまで迷惑を掛けてしまうのは嫌だという判断だ。もしも相手にするのなら聞いておきたいという気持ちは当然あるが、ここは胸の内に潜めておく。
「残念ながら詳しくは見せて貰えなかったから、あくまでも推測になるけどそれでも構わないのかい?」
「少なくても情報は情報だ。あるに越した事はない」
ともかく知れる範囲の事は知って、それから敵に挑もうというスタンスなのだ。だからこそこのように行動している。
それを知ってか知らずかモルフォも少し悩む素振りを見せたが、どうやら決心したように頷く。
「わかったよ。そこまで言うのなら人形遣いの見識で話させて貰うよ」
言いながら席を立ち、棚に収められていた一冊の分厚い本を手に取った。それを捲りながらモルフォは言う。
「基本として、人形には、人間で例えると心臓やその他の臓器に血管や骨などといった部分を内部構造、それから皮膚や頭髪などを外部構造と称しているんだ」
昴とレイセスの頭に過ぎったのは先程見せられた人形の中身。伽藍堂の中に大小様々なパーツが取り付けられていた。詳しくは見ていないが、それらを内部構造というらしい。そしてあの異様なまでに硬く、不気味で無機質な見た目を外部構造。そのままである。
「率直に言うと、外部にはこれといった明白な弱点とか脆弱性っていうのは存在しないんだ。特にうちの人形師が作る場合はね」
「それは、どうしてでしょう……?」
ここに来てから縮こまるように大人しくしていたレイセスが口を割った。今彼女が考えていたのは恐らく昴の肉体への負担だ。どれだけ強化の魔法を使用したとしてもそれに肉体が耐えられる限界というものは存在する。だからこそ負担を掛けたくなかったのだ。
「……クレイ家の作る人形というのはあくまでも戦闘に特化しているから、というのが答えです。熱さも冷たさも耐え、傷を付けられても大きい支障を出さない。合金を使っているのだけれど、それは秘伝なので」
レイセスの素性を知っているモルフォ。故に言葉を選びながらの発言だ。これで昴に証明されたのはモルフォという少年が約束は守れる人間である、という事。
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